個人総合から鉄棒専念の内村航平 悩み抜いての決断「頂点」への渇望

西日本スポーツ 伊藤 瀬里加

 体操界のキングが新境地を開こうとしている。男子個人総合で五輪2連覇中の内村航平(リンガーハット)=長崎県諫早市出身=は、同種目とリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得した団体総合での東京五輪代表を狙わず、種目別鉄棒での挑戦を表明。世界最高のオールラウンダーは自身4度目の五輪で、スペシャリストとして3大会連続の金メダルを狙う。

■痛み消えた

 悩み抜いての決断だった。延期がなければ東京五輪の体操競技真っ最中だった7月29日、内村はオンラインで報道陣の取材に応じ、自らの思いを一気に吐き出した。個人総合で五輪2連覇、世界選手権6連覇を含む40連勝。「オールラウンダー」は自らのアイデンティティーともいえる。「まだ6種目やりたいと思っている」と未練をのぞかせつつも、頂点への渇望が上回った。

 「今まで結果はついてくるものだと言ってきたけど、アスリートって負けず嫌い。どうしても世界で一番を取りたい。その思いに支えられてきたと感じている」

 数々の栄冠と引き換えに酷使を続けた31歳の体は限界に近い。近年は両足首や両肩を故障し、昨年は世界選手権の代表を逃した。特に肩はひどく、1年間で打った注射は100本以上に及んだ。

 2015年の世界選手権で金メダルを獲得した種目で、肩への負担が少ない鉄棒に絞る選択肢が浮かびながらも葛藤が続いた。「『6種目やらない自分は自分ではない』とプライドをなかなか捨てられなかった」

 昨年末から「実験」と称して鉄棒に集中する日を取り入れた。すると、痛みがない。「前向きに考えて自分が今、この状況で輝ける方法がこれしか見つからなかった」。2月に決断を下した。

 鉄棒に今までの2倍以上の時間を費やす。当初は手のまめや皮が痛くなった。「小学生以来の悩み。鉄棒だけでもあらためて追い込めるんだなと感じている」。個人総合の選手との合宿では「周りは6種目やる中、鉄棒の主みたいな感じで常にいます」。肩の痛みも軽減され、表情は明るい。

 1種目に集中することで、今後はより高難度の技に挑戦できる。演技構成の詳細は「お楽しみという感じ」と明らかにしなかったが、H難度の大技「ブレトシュナイダー(コバチ2回ひねり)」を入れた構成を予定。新技「ウチムラ」の開発については「名前のついた技は欲しいけど…」と語りつつも否定的だ。「『あれだけ個人総合で勝ったのに、名前のついた技がないらしいよ』というのも逆にありかな」とおどけた。

 東京五輪の1年延期が決まり、さすがの内村も「喪失感が大きかった」と練習に身が入らない時期があったという。一方、このコロナ禍でトップアスリートとしての使命感にも駆られた。

 「コロナでうまくいかなかった人がたくさんいると思う。スポーツの力で日本を変えるくらいの演技をしないといけないと思っている」

 スペシャリストとしての初戦は9月の全日本シニア選手権(群馬)の予定。「見ている人をわくわくさせる演技を鉄棒だけでも表現したい」。キングの新しい姿が、今から待ち遠しい。 (伊藤瀬里加)

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