ソフト上野由岐子 若い頃にあった「やられパターン」と、その理由

西日本スポーツ

 東京五輪ソフトボール女子日本代表の宇津木麗華監督は、北京五輪以来となる金メダル獲得の期待を担う中で令和を迎えた。

 生まれ故郷の中国から昭和に来日。選手や指導者として平成を駆けた。一度は五輪から除外された期間の苦しさを知るからこそ、選手には日本代表として五輪で戦う意味や価値を問い続ける。「競技人生の集大成」と言い切る東京五輪への道のり。その思いを語った。

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 現役時代は打席で自分の考えが相手投手にばれないように肝に銘じていた。空振りしたときは、サングラス越しに太陽を見て笑っていた。投手は不気味だったかもしれない。顔から上のボール球を振らされるのは、大抵予測してなかったり、誘惑に負けてしまったりしたときだ。空を見てリセットして頭を整理して狙い球を絞った。今でも空や遠くを眺めていると、ふとアイデアが浮かんでくる。地面を見ても良い考えは出ない。「上を向いて歩こう」とはよく言ったものだ。

 野球とソフトボールの比較で打者の「体感速度」が話題になる。例えば上野由岐子(ビックカメラ高崎)が投げる120キロは野球だと160―170キロに相当するらしい。球のサイズが大きくて球速は出にくくても、距離が近いため体感では野球よりも速く感じるそうだ。投手と捕手の距離は野球の18・44メートルに対し、ソフトボールの女子は13・11メートル。私の現役時は約12メートルで目の前から投げ込まれる感覚だ。昔は今のような20秒ルール(捕手から返球されて20秒以内に投球しないと1ボールを取られる)がなかったため、意図的に「間」をつくることもあった。

 プレーは決断の連続だ。そのためにも打撃のタイミングと同様に「間」は欠かせない。相手を観察し、情報を仕入れることも必要。何も考えていないと、投手の術中にはまってしまう。野球と同じく主導権を握っているのは投手だからだ。以前、上野に「(危険な)雰囲気を感じる打者は?」と質問したら、2人の名前を挙げた。1人が2008年北京五輪で代表を率いた斎藤春香(現日立監督)で、もう1人は私だった。

 上野が初めて代表入りした頃、フリー打撃で対戦したことがある。投手出身だった私は、球が速くて制球がいい投手の方が好きだった。上野にすれば、構えから打たれそうな気がしたかもしれない。「あなたのことを知っているのよ」というムードを醸し出されると、投手は警戒心を抱き、あれやこれやと考え始める。そういう駆け引きが好きだった。技術以外の引き出しも常に用意しておかないといけない。行き当たりばったりでは勝負できない。

 若い頃の上野には、やられるパターンがあった。初回の先頭打者に安易にストライクを取りにいっての被本塁打だ。四球で出塁させたくない意識は分かる。一方で打者は上野から多くの得点は望めないと考え、一発長打を狙う。この二つの要素が重なって“交通事故”のような本塁打を浴びることが意外と多かった。

 上野とは打者の表情やしぐさから「穴」を探し出そうと話を重ねてきた。穴が見えないときは打たれる確率が低いところを突く。誘い球に乗ってこなければ四球でも構わない。走者を背負っても明確な意図があれば、私は何も言わない。いくら気持ち良く三振を奪ってもチームを勝利に近づけなければ、エースとは呼べない。「自己満足」は勝負師にとって大敵である。(ソフトボール女子日本代表監督)

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 宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

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