「優勝しても…」記者の質問に監督は首を振った 甲子園につながらない“特別な夏”を振り返る

西日本スポーツ

 本当に「特別な夏」だった。2020年の高校野球も九州では各県の独自大会が終了し、10日には甲子園で交流試合が開幕する。新型コロナウイルスの影響で選手も指導者も、取材するメディアも異例の年となった。福岡地区を中心にこの夏を振り返ってみたい。

 ペイペイドームで行われた福岡地区大会決勝は福岡市の進学校の福岡が福岡大大濠をタイブレークの末に破り優勝。「夢みたいでした。まさか勝つとは」と福岡の森谷史人主将(3年)は声を上ずらせた。0-0で延長に突入し、10、11回とリードを許しながら追い付き、最後はサヨナラ勝ちという粘りの優勝。決勝は大舞台にふさわしい名勝負だったと思う。

 振り返れば福岡ナインの歓喜はなかったかもしれないのだ。5月25日、県高野連の「福岡県では独自大会を行わないことを決めました」という会見での一言から幕を開けた福岡の高校野球。夏の甲子園と地方大会の中止決定からわずか5日後だった。「簡単に決断を下したわけではない。結論を先送りにして生徒の進路、次へのスタートを遅らせてはいけないので」。高野連関係者の説明は間違ってはいないと思いながら、何とか開催する方法があるのではとの思いは消えなかった。

 その日の夜には福岡地区の監督が独自の交流試合を企画。指導者たちは連日、深夜まで話し合いを重ねた。甲子園に代わる思い出を残してあげたいと、福岡の高校野球では開幕戦以外で一度も使われたことのないペイペイドームでの決勝を実現するために奔走。「子どもたちのためにできることはしてあげたい」とある指導者は話してくれた。福岡地区だけではなく、県内の各地区の指導者が3年生の最後の花道について話していた。

 最終的には高野連が結論を覆し県内を4地区に分けた独自大会の開催を決定した。混乱も起きただろうが、一度下した結論に固執せず「3年生に申し訳ない」とわびてかじを切ったことは評価されるべきだと思う。

 大会では3年生が全員ベンチ入りしたチームも多かった。マネジャーや記録員が公式戦の打席を経験したチームもある。甲子園出場がかかった大会では考えられないこと。どのチームもみんなで最後の夏を楽しもうという気持ちがあった。

 各地区の決勝を残すのみとなった今月1日、福岡ソフトバンクの選手の新型コロナウイルス感染が判明。ペイペイドームでの福岡地区決勝は変更の可能性もあったが、両校関係者と球団の話し合いで予定通りに行うことを決めた。福岡のエース緒方駿介(3年)の制球力は最後まで衰えず、プロ注目の福岡大大濠の山下舜平大(同)が延長11回に151キロを記録。緊迫した投手戦から生まれた名勝負は、日差しがなく体力の消耗が少ないドーム球場ならではだったと思う。

 二度とない夏の王者は九州国際大付、飯塚、西日本短大付、福岡の4校だ。「優勝しても甲子園にはつながらない。選手の気持ちはどうなんでしょう」。私の質問に飯塚の竹中禅監督はとんでもないという顔をした。「最高でしたよ。3年生みんなが出られて。交代を告げても嫌な顔をする選手はいなかった。チームは最高でした」

 選手は流れに翻弄(ほんろう)され、大人は苦悩と葛藤を抱えながら選手が最後の夏を迎えられるよう力を尽くした。甲子園のない異例の夏から選手や指導者が学ぶこともたくさんあっただろう。仲間とともに野球を楽しんだ今年の夏が、来年以降へ生きればいいと思う。(前田泰子)

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