ラグビーW杯の舞台裏に子どもたちの奇跡 今、明かされる「もう一つのストーリー」

西日本スポーツ 大窪 正一

 昨年9月20日に開幕し、列島を熱狂に包んだラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会からもうすぐ1年。日本代表が史上初の8強入りを達成し、南アフリカの優勝で幕を閉じた44日間の舞台裏では子どもたちを中心にたくさんの「奇跡」が起きた。

 大会招致に尽力し、組織委員会事務総長特別補佐を務めた徳増浩司さん(68)が今年6月に発売された著書「君たちは何をめざすのか ラグビーワールドカップ2019が教えてくれたもの」(ベースボール・マガジン社)で、そうした「もう一つのストーリー」を紹介している。コロナ禍で追い風が失速した日本ラグビー。徳増さんが同書に込めた未来を担う子どもたちへのメッセージとは-。

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 昨年10月6日に熊本で行われたフランス-トンガ戦。試合前、徳増さんに会場から連絡があった。沖縄でラグビーに取り組んでいる中学1年生の少女が試合入場時に国旗を持つ役に推薦されていたのだが、母親と一緒に当日会場に到着すると、手続きミスでその役が別の子に決まっていたことを知らされた。

 がっかりした母娘。複数のスタッフはとっさの判断で、予定していた人の同意を得て、試合で最も活躍した選手にトロフィーを渡す役を少女に用意する粋な計らいをした。「あなたに魔法のプレゼントがあるよ」。そう告げられた少女は一生忘れられない至福の時を過ごせた。「私も悲しみを笑顔に変えてあげられる魔法使いになりたい」

 著書では、こうしたW杯期間中にあった子どもたちにまつわるエピソードを取り上げた。「未来を担う子どもたちに諦めない気持ちを持ち続けることの大切さを知ってもらいたかった。既に起きてしまった現実を受け入れ、そこから変えられることがないか模索することで新しい道が開ける」。コロナ禍で暗い気持ちに陥りやすい今の日本社会を生き抜く上でも大切な姿勢ではないかと語る。

 徳増さん自身、諦めない気持ちで未来を切り開いてきた。西日本新聞社の運動部記者時代に、来日したウェールズ代表の華麗なラグビーに魅了されて退職。何のつてもないままウェールズに渡り、現地で住み込みの掃除人をしながら大学に通い、指導法を学んだ。

 帰国後は指導者として茨城・茗渓学園高を花園で優勝に導き、転身した日本ラグビー協会でW杯招致に尽力した。2011年大会の招致には失敗。再挑戦で射止めたのが昨秋のW杯だった。チャレンジする大切さを感じさせる自身の半生も同書で触れている。

 現在は自ら設立に関わった日本人と外国人の子どもたちが一緒にラグビーを楽しむ「渋谷インターナショナルラグビークラブ」の活動や都内の高校での指導を行う毎日。「草の根のラグビーの現状を知ることで今後の日本ラグビー界の発展に貢献できれば」と情熱は尽きない。 (大窪正一)

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