正代初V、胸の奥に故郷への思い 泣きながら稽古していた

西日本スポーツ 手島 基 林 原弘

 「信じられない」-。上を向いてこらえた涙が花道の奥であふれ出し、付け人と喜びをかみしめた。27日が千秋楽だった大相撲秋場所で関脇の正代関(28)=熊本県宇土市出身=が13勝2敗で初優勝を果たし、大関昇進を確実にした。

 1909年に優勝制度ができて同県出身力士の優勝は初めて。2016年の熊本地震、今年7月の豪雨と災害に見舞われた故郷へ、歓喜と力を届けた。「地元の応援が力になった。自分の相撲で少しでも楽しんでもらおうと。ほんの少しだけど恩返しできた」。賜杯を手にした正代関は声を震わせた。

 優勝が懸かった一番は、今場所旋風を起こした新入幕の翔猿関に苦しめられた。「相撲人生で一番緊張した。2時間弱しか眠れなかった」と打ち明けた重圧とも闘い、俵に詰まっても押し返し、突き落とした。「最後まで諦めないのが良かった」。故郷へのメッセージが詰まる白星だった。

 千秋楽に熊本城を描いた着物で場所入りした正代関の原動力の一つが、故郷への思い。宇土市役所が大きな被害を受け、実家の土台にもひびが入った熊本地震後、両国国技館で開かれたチャリティーイベントで「力になりたい」と寄付を呼び掛けた。避難所や学校を訪問。「皆さんの印象に残る相撲を取りたい」と誓った。優勝を逃した7月場所千秋楽には「もっと大きな力を届けたかった」と悔しさを胸に刻んだ。

 熊本は己を鍛えた地だ。相撲を始めた小学1年時に体重が約40キロあった。中学卒業後、元小結智乃花関(現玉垣親方)らを輩出した熊本農高に進学した。同校の土俵は通常の直径15尺(約455センチ)より広い16尺(約485センチ)。下半身強化のため、この土俵を10キロの石を持って腰を割って10周する稽古を行うが、正代関は志願して40キロの重りを持って20周した。現同校監督の早野将史さん(36)は「よく泣きながら稽古をしていた」。1日1時間は土俵を占拠するほど稽古に汗を流した。

 正代関は寮に入らず、実家から高校に通っていた。同期の片山大誠さん(28)=熊本・南稜高教諭=は「入学時は120キロくらいの体重が1年で100キロを切った。夜9時に厳しい稽古を終えて、掃除、洗濯を終えた後、10時くらいに下校していた」と語る。そんな日々を乗り越え、3年時には国体少年個人で優勝。東京農業大2年時には学生横綱となり、卒業後プロの世界に飛び込んだ。

 地元ファンの声援を受けた昨年11月の九州場所千秋楽。勝てば敢闘賞という緊張感に打ち勝ち、朝乃山関を攻め抜いて快勝した。「(この場所で)一番いい形の相撲が取れた」。11勝。伸び悩んでいた正代関は殻を破り、今年の躍進につなげた。新大関として臨むであろう11月場所の舞台は、コロナ禍で九州ではなく、両国国技館。故郷に錦を飾るのは先でも「大関は憧れの地位。プレッシャーはあるだろうが、浮かれずにやっていく」。口元を引き締めた。 (手島基、林原弘)

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