母代わりで育てた92歳祖母にラガーマンが感謝のプレー「ばあちゃんのおかげ」

西日本スポーツ 大窪 正一

 21日に開幕したラグビー大学選手権。会場の福岡県営春日公園球技場にはコロナ禍の影響で関係者以外入れなかった。無観客試合と知らずに訪れ、残念がるラグビーファンもいた。いつもなら歓声が湧くスタンドはがらんとして寂しかった。

 福岡工大の関係者エリアに目を移すと車椅子に乗ったお年寄りがいた。三樹恵美子さん(92)。孫の晴れ舞台を一目見ようと親戚と一緒に宮崎県日向市から車で駆けつけたという。視線の先には、スクラム最前列で格闘するプロップ矢野裕康(4年・日向)がいた。

 「ばあちゃんのおかげっていつも言ってくれるんですよ」。三樹さんは目を潤ませ、孫の勇姿を焼き付けていた。矢野が小学3年生の時、ひとり親だった母が交通事故で他界。以来高校卒業まで母親代わりとなったのが三樹さんだった。

 「寂しかっただろうに文句も言わん。本当にいい子に育ってくれた」と涙ぐむ。祖母から愛情を注がれた矢野は「母が亡くなった当時は何が起きたか分からなかった」。孤独や寂しさを感じる前に祖母が「母」に。そんな中、三樹さんの子育てを側面で支えたのがラグビーだった。

 矢野は中学から楕円(だえん)球を追い始めた。「信頼する仲間がいっぱいできた。幸せだった」。時に痛みや恐怖も伴う競技だが「仲間と乗り越えていく。心のつながりを感じられる。昨秋のワールドカップで多くの人がその魅力に気づいてくれてうれしい」と感謝する。

 178センチ、113キロの大きな体で中学からプロップ一筋。しかも右プロップ(3番)だ。スクラムでは頭の両側を相手に挟まれ、両肩に相手の体重がかかる最もきついポジション。「気は優しくて力持ち」を地で行くナイスガイだ。

 試合は苦しみながらも福岡工大が勝利した。終了後、三樹さんの元へ矢野は足早にやってきた。仲間を連れて。「ばあちゃん、来てくれてありがとう。こんなに仲のいい友達がいる。(三樹さんがいる)日向に連れていくからね」。三樹さんはうんうんとうなずいた。2回戦が行われる名古屋は遠いが「現地で応援できれば」と三樹さん。その言葉を聞いた矢野の目が優しく輝いた。 (大窪正一)

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