「フルリモート演劇の雄」がHKTとタッグ 「眠った才能引き出す」

西日本新聞 古川 泰裕

 企画から脚本や衣装、美術、そして本番まで、俳優やスタッフが一度も直接、顔を合わさずオンライン上で制作を進める「フルリモート演劇」。新型コロナウイルス禍、演劇の火を消すまいと始まった試みだ。そのきっかけをつくった劇団ノーミーツ(東京)が、福岡を拠点とするアイドルグループHKT48とタッグを組んだ。劇団の助言を受けながら、メンバーが演劇に関わる全てを担う。何を生み出そうとしているのか。

 ノーミーツはコロナ禍の昨年4月、映像プロデューサーの林健太郎さん(27)や劇団主宰者、脚本家らが集い、ビデオ会議アプリのZoom(ズーム)を活用した演劇を提唱。会員制交流サイト(SNS)に1~2分の短編作品を投稿し、話題を呼んだ。

 同5月には140分にわたる初の長編「門外不出モラトリアム」を公開した。リモート講義のまま4年間の大学生活を終える5人の若者を描いた作品。俳優それぞれが分割された画面の中で演じ、衣装や小道具で季節の変化を演出。これまでにないスタイルは「フルリモート演劇の雄」としてメディアに取り上げられ、第2作も含めた有料鑑賞者は1万2千人を超えた。

 11月には専用サイトであるオンライン劇場「ZA」も開設。長編第3作では、視聴者がシナリオを選択肢から選び、ストーリーが変わっていく試みも取り入れた。活動開始からまもなく1年、SNSに投稿した短編の再生数は3千万回超。林さんは「これまでは単発の作品作りと考えていたが、文化としてもの作りができないか探求している」と語る。

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 ノーミーツの次の一手がアイドルとの合体だった。

 昨年10月に「HKT48、劇団はじめます。」の企画を発表した。HKTメンバーのうち36人が参加。「ごりらぐみ」「ミュン密」という二つの劇団に分かれ、演者はもちろん、プロデュース、広報、音響、映像などそれぞれ担当を決め、林さんたちがノーミーツで得た手法を伝授している。

 きっかけをつくったのは「門外不出モラトリアム」に出演したHKTの田島芽瑠さん(21)。アイドル活動が制限される中、自らの意思でオーディションを受けた。こうした活動も含め、現代のアイドルは自分で自分を演出し、SNSで発信してファンを獲得していかなければならない。

 「プロデューサーでありクリエーターでもある」と刺激を受けた林さんは、ゼロからプロジェクトを立ち上げ、未知の役割を担わせる過程を通して「彼女たちの眠っている才能や新しい視点を引き出せるのでは」と共同企画に乗り出した。

 準備期間は3カ月以上、今月20日から上演が始まる。この間、舞台裏で成長する姿を見せるのも企画の狙いで、メンバー同士のZoomでのやりとりを逐一、SNSで公表。ドキュメンタリー映像もユーチューブで公開した。AKB48グループは昨年末のNHK紅白歌合戦に落選し、メンバーたちは危機感を抱いている。その思いを冒頭で率直に語る場面もある。

 本番を前に、林さんは「一番挑戦的な選択肢を選んだ。失敗するかもしれないが、成功したとき、想像し得なかった何かを得られると思う」と意気込む。

 上演するのは、引きこもりの主人公を軸に人間関係を描いていく「不本意アンロック」と、コロナ禍で女子高校生がアイドルを目指す「水色アルタイル」。今回、「水色-」の演出を担当する田島さんは「フラッと立ち寄った喫茶店でお茶をするような感覚で、何も考えずただ純粋に触れてほしい」と呼び掛ける。

 福岡のアイドルと組んだ実験を、地元の演劇関係者はどう見るか。若手舞台芸術家を支援するNPO法人アートマネージメントセンター福岡の糸山裕子代表は「演劇は表に出ているのは3分の1程度で、裏方の仕事が山ほどある。社会とつながっていかないと裏方は務まらない。それを体験すれば、自分の人生を決めるときに絶対にプラスになるし、支える側の面白さも分かるのでは。身近な存在となったアイドルによる発信で、演劇の魅力が広く伝われば」と期待を寄せる。(古川泰裕)

 ◆HKT48、劇団はじめます。 20、21、23、27、28日の5日間、オンライン劇場「ZA」で配信。「ごりらぐみ」「ミュン密」の2劇団が「不本意アンロック」「水色アルタイル」の2作品を1日に2回ずつ公演する。午前11時、午後2時、同5時、同8時。チケットはオンラインで購入するデジタル式で、一般2800円、18歳以下500円、公演ごとの反省会も視聴可能な「バックステージセット」は4800円。 

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