五輪金メダルより印象に残る「中本」 競技人生のラストもノーマーク

西日本スポーツ 向吉 三郎

【記者コラム】

 安川電機陸上部は26日、2012年ロンドン五輪男子マラソン6位の中本健太郎(38)が28日付で現役を引退し、コーチに就任すると発表した。

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 「五輪の一番の思い出は?」。ロンドン、リオデジャネイロの両五輪を現地で取材し、よく聞かれる質問だ。迷わず答えるようにしている。「中本」。体操の内村航平、柔道の大野将平ら金メダリストの取材も担当した経験があるが、ロンドンで他の記者たちが“ノーマーク”だった中本が終盤に猛烈に追い上げたシーンには心が震えた。

 世界のスピード化の波に完全に後れを取っていた当時の日本マラソン界にとって、6位入賞は内村や大野にひけを取らない快挙だったと思う。

 当時、メディアの注目を集めていたのは公務員ランナーの川内優輝や、実業団を飛び出してプロランナーになった藤原新。2人のような派手な言動は好まない。実業団で地道に力をつけ、淡々と結果を出したが、胸に宿る負けじ魂を、どのランナーよりも持っていた。

 ロンドンでは拓大の先輩の藤原に先着。5位入賞した翌年の世界選手権では、半年前の別府大分毎日で激しいデッドヒートの末に敗れた川内を引き離して先着して「日本に中本あり」を知らしめた。リオ五輪代表を逃した翌年の別府大分毎日では狙っていたマラソン初優勝を達成。「速さ」よりも「強さ」が際立った。

 東京五輪代表を逃した後、中本は2020年のボストンマラソンへの出場を目指した。「速さ」だけではなく「タフさ」が求められるコース。単なる思い出づくりとは考えられなかった。それだけにコロナ禍で中止となった心境を察すると心が痛んだ。

 元日の全日本実業団対抗駅伝でエース区間の4区を走る中本の姿を見たときは少し安心した。しかし…ノーマークの引退発表。それも安川電機陸上部のホームページでひっそりと。これもまた中本らしかった。(向吉三郎)

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