マラソン驚異の記録ラッシュの日、名ランナーが静かに引退 「えっ、と思った」川内優輝も惜しむ

西日本スポーツ

 2月28日にあったびわ湖毎日マラソンは、鈴木健吾(富士通)が2時間4分56秒の日本記録をマークしたほか、2時間6分台も4人と衝撃の記録ラッシュとなった。

 プロランナーで33歳の川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)も、8年ぶりの自己ベストで自身初の2時間7分台となる2時間7分27秒を記録した。レース後、ちょうど同日付で現役引退し、コーチとなった安川電機の中本健太郎さんについて聞いた。川内とも数々のレースで競い合ってきた選手。少し寂しげな表情で言葉をつないだ。

 「びわ湖の直前に知って『えっ』と思った。今年のニューイヤー駅伝を走ったのに、最後、マラソンを走らずに引退すると思わなかったので…」

 中本さんが出場した3度の世界選手権に川内も全て出場している。そして何より、川内が優勝、中本さんが2位だった2013年の別府大分毎日マラソンが、私が取材した中で忘れられないレースだった。2人で10キロ以上続けたデッドヒート。マラソンファンの記憶に残る名勝負の一つだろう。だからこそ、聞いてみたかった。

 「11年の大邱(韓国)世界選手権から10年間ずっと、目標にしていたり。ライバルと言ったら実績的に違いすぎますが、中本さんはすごく刺激になった」と振り返った川内。何よりも惜しんだのは、中本さんが出場を予定していた昨春のボストンマラソン中止だ。川内も18年に優勝した世界最古のマラソン大会。起伏に富んだ厳しいコースで、ペースメーカーもいないため、記録よりも勝負が重視される。自ら「本当は中本さんは昨年ボストンにエントリーしていて…」と切り出して続けた。

 「ボストンやニューヨークのようにタフで、ペースメーカーがいないレースでは世界を驚かす結果を出すと思っていた。コロナのせいで走る機会がなく引退になってしまったことはすごく残念。世界の超一流に、タイムだけではないというところを見せて引退してほしかった」

 高速化する近年の男子マラソンで、中本さんの自己ベスト2時間8分35秒は傑出したタイムではない。だが、12年ロンドン五輪で6位、翌13年のモスクワ世界選手権5位と世界大会の2年連続入賞という快挙は、記録のレベルが上がった今の選手たちでも簡単に成し遂げられることではないだろう。世界中のマラソンを知り、日本の一時代を築いた名ランナーの「強さ」を誰よりも知る、川内ならではの惜別の言葉だった。(伊藤瀬里加)

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