2年半で甲子園つかんだ小さな島の公立校 「みじめな」屈辱的大敗が転機

西日本スポーツ 前田 泰子

 人口約5000人の大島から甲子園へ-。第93回選抜高校野球大会(19日から13日間、甲子園)に初出場する大崎(長崎)は、本格的な強化を始めてわずか2年半で甲子園切符をつかんだ。県内では2019年秋から公式戦無敗で、昨秋は九州大会で初優勝。大きな転機となったのは、屈辱的なコールド負けだった。島民にこよなく愛される「おらがチーム」は、21日の1回戦で福岡大大濠との九州対決に臨む。 (前田泰子)

 屈辱的な大敗がチームのターニングポイントとなった。19年夏の長崎大会初戦で鎮西学院に3-12で7回コールド負け。前年に清水央彦監督が就任し、同時に入学した“1期生”が主力となって臨んだ夏。ある程度実力もつき自信を持っていただけに、ショックは大きかった。

 「応援に来てくれた人たちにみじめな思いをさせてしまった。泣いて謝りました」。チームを変えようと決意すると、その夜に新チームの主将と副主将を寮の部屋に呼んだ。「練習を厳しくしていいか」。答えは「もっと厳しくしてもらって大丈夫です」。強化を始めたばかりでセーブしていた練習を変えた。

 清水監督の練習方針は細部まで突き詰めることだ。気付いた点があれば練習を途中で止め、細かく指導。キャッチボールを流していると感じたらやり直す。さらにストップウオッチを手放さず、打球が飛んだ瞬間からバックホームまでのタイムなどを計測。「練習が変わり意識も変わった。チームの変化が目に見えて分かりました」。坂口航大前主将は振り返る。

 清峰を指導していた時から行っている10キロ以上ある丸太を抱えて走るインターバル走も妥協はしなかった。270メートルを設定タイムでクリアできなければ、何度もやり直す。あまりの厳しさに泣きだす選手もいたほどだ。

 猛練習の効果はめざましかった。19年秋の長崎大会で優勝。58年ぶりに出場した九州大会は初戦で惜敗したが、そこから再び連勝街道を走り、新チームとなった昨秋は9連勝で九州大会を初制覇。選抜切符をつかんだ。

 「卒業した3年生がチームの力を急速に積み上げてくれた。彼らが頑張ってくれたから、(今春の)甲子園に行くことができた」。清水監督は聖地の土を踏めなかった“1期生”に感謝する。

 3月の卒業式後。坂口前主将はチームメートとともにグラウンドに集まった。「他の高校に行くよりも3年間、いろいろな経験ができた」。コロナ禍で全国選手権が中止となった昨夏は、県の独自大会も制した。晴れ晴れとした旅立ちだった。

 現チームを引っ張る秋山章一郎主将は「先輩たちが支えてくれた。甲子園で頑張って先輩や応援してくれた方々に喜んでもらいたい。それがみんなの気持ち」と決意を代弁する。昨秋の九州大会決勝の再現となる福岡大大濠との九州対決で、小さな島の公立校が全国デビューを果たす。

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■「大崎旋風」で島に恩返しを

 学校がある大島はコンビニが1軒だけで、ファミリーレストランやファストフード店もない。人口約5000人の小さな島で野球に打ち込む大崎ナインを、地元の人は熱心にバックアップ。2018年春に発足した野球部後援会は800人を超えた。

 かつて炭鉱で栄え、最盛期は2万人近かった人口も炭鉱の閉山以降は減り、現在は高齢化も進む。県内各地から集った野球部員たちは島に活気をもたらした。後援会の浅田直幸会長(67)は「よく島に来てくれた。若い人がいるだけで活気が出るんです」と話す。

 野球部員は秋の祭りでみこしをかつぎ、イベントでは駐車場の交通整理などもする。坂口前主将は西海署で一日警察署長を務めたこともあるという。島民からは規格外の農作物や肉、魚などさまざまな食材を差し入れしてもらっている。

 寮で毎日1俵(60キロ)炊く米もほとんどを差し入れでまかなう。「応援してくださる方々のために頑張りたいという気持ちだけ」。清水監督は甲子園の勝利での恩返しを誓う。浅田会長も「大崎旋風を起こしてほしい」と聖地での快進撃を楽しみにしている。

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