羽生結弦と姫路城 内村航平が追い求めた理想の演技

西日本スポーツ 伊藤 瀬里加

 体操の男子予選で内村航平(ジョイカル)=長崎県諫早市出身=が鉄棒で落下して20位に終わり、種目別決勝に進めなかった。H難度の「ブレトシュナイダー」など三つの離れ技を成功させた後の演技でのまさかのミスだった。2012年ロンドン、16年リオデジャネイロの両大会で五輪個人総合2連覇を達成し、32歳で迎えた自国開催の4度目の五輪。鉄棒1種目に懸けた第一人者の挑戦が終わった。

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 「キング」の4度目の大舞台は、あまりにも短かった。冒頭にH難度の「ブレトシュナイダー」など離れ技を三つ成功させた直後だった。D難度のひねり技で右手が離れ、マットにたたきつけられた。「何やってんだ、ばかって感じ」。13・866点。その時点で上位8人による決勝進出の可能性は消滅した。

 個人総合から種目別鉄棒に転向して臨んだ東京五輪は、まさかの予選落ち。「前みたいに練習してきたことをそのまま出せる能力が自分にはない」。突きつけられた現実を受け止めると、すっきりとした表情で言葉をつないだ。「僕が見せられる夢はここまでかな」。団体で予選1位通過を決めた後輩たちを応援しながら、世代交代も感じ取った。

 「主役はもう彼ら。今後の日本というか、世界の体操界を引っ張っていける選手たちがそろっている。(自分は)いらないじゃんと思った」

 19歳で出場した2008年北京五輪の個人総合で銀メダル。同種目で12年ロンドン、16年リオデジャネイロ両大会を含む世界大会を8連覇した。団体との2冠も達成したリオ五輪後に体操界初のプロに転向した後は相次ぐ故障に見舞われた。特に両肩痛に苦しみ、20年2月、「6種目やってこそ体操」の信念を捨てて鉄棒への専念を決めた。

 6種目でも1種目でも、理想は変わらない。「見ている人に体操を見ていると思わせないこと」。体操の英語表記は「Artistic Gymnastics」。「アートじゃないといけない。絵画を見ているような、美しい景色を見ているかのようと思わせるのが理想」。特に建築物に関心があり「お城とかすごく好き。人がつくったものに美しさを感じる」と話す。

 中でも「姫路城には勝てない。一番美しいと思う」。10年ほど前に訪れ、優美なたたずまいに言葉が出なかった。「それが『本物』だと思う。フィギュアスケートの羽生(結弦)君の演技も近い」。長い年月をかけて一工程一工程を丁寧に積み上げる築城の作業のように、体操を極めてきた。世代交代こそ感じ取っても、体操への探求心は失っていない。

 「体操を永遠にやめないかもしれない。引退することが終わり方の正解なのかと考えると違うと思う」。その瞳はまだ究極の「理想」を追い求めている。(伊藤瀬里加)

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