兄妹Vで思い起こす4年前の光景 阿部一二三が記者を呼び止めて言ったこと

西日本スポーツ 手島 基

 妹が喜びを爆発させた畳で、兄は厳しい表情のままこみ上げる思いが詰まる汗を拭った。エールを送り合うように、阿部きょうだいは勝利を重ねた。そして柔道の聖地、日本武道館に歴史的な金メダルを掲げた。

 ほほ笑ましいほどのきょうだい仲に接したのは2017年7月だった。日本男子の取材後、一二三に呼び止められた。「もちろん素根さんはすごいけど、実は詩が一番すごいと思いませんか」。その数日前にあった金鷲旗大会。主催する新聞社の記者である私に向けるまなざしは真剣だった。

 体重無差別の抜き勝負で高校生が争う金鷲旗の女子決勝は、東京五輪78キロ超級代表の素根輝が大将に座る福岡・南筑と52キロ級代表の阿部詩が先鋒でけん引する兵庫・夙川学院(現夙川)の対戦に。詩が4人を抜き、引きずり出された素根は詩を含む5人を抜き返して優勝した。

 ともに2年生。決勝での5人抜きは男女を通じて大会史上初めてだった。しかも大将による5人抜き。相手先鋒の4人抜きがなければ実現しない。

 「(詩は軽量級の)52キロ級ですよ。決勝で4人を抜き(当時体重100キロの)素根さんとやっただけでもすごい。柔道で、高校生にとって体格差はとてつもなく大きい」。同じ軽量級の66キロ級で金鷲旗に出場し、体重無差別の闘いを体感している一二三の力説に、うなずくばかりだった。

 「兄を追い掛けてきた」と感謝する詩と勝利を重ね合った東京五輪。福岡市出身で1996年のアトランタ五輪を沸かせた「中村3兄弟」の長兄、佳央さん(現旭化成広報部スポーツ広報室)は「きょうだいで切磋琢磨(せっさたくま)してきた姿を見るような“共演”だった」。

 重い階級順に実施されたアトランタでは95キロ級で7位だった佳央さんから試合場の実体験を伝え合い、71キロ級の末弟の兼三さんが金メダル、65キロ級の次兄の行成さんは銀メダルを獲得した。「3人勝つと親が喜んでくれるのが原動力だった」と佳央さん。妹思い、兄思いの阿部きょうだいからも家族が見えた。そして勝負、記録、偉業の裏に光を当てる大切さを再認識させられた。(手島基)

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