「スポーツの力で日本を明るくした」などとは言えないが【記者コラム】

西日本スポーツ 向吉 三郎

【記者コラム】

 「THANK YOU TOKYO」。競泳競技最終日の1日、全レース最後の男子400メートルメドレーリレーを世界新記録で締めくくった米国チームが、表彰式後にこう書かれた旗を掲げた。「1年半前、私たちがこの場にいられると想像もしなかった」。この種目で大会5個目の金メダルを手にしたドレセルは言った。

 世界中が未知のウイルスと闘い、史上初の延期というプロセスを経て実現にこぎ着けた東京五輪は開幕直前まで開催に否定的な意見が大半を占めた。東京が緊急事態宣言の真っただ中で、ほとんどの競技が無観客。異様な雰囲気で競技が行われる中、日本のメダリストたちも開催への感謝を述べた。リオデジャネイロ五輪から5年の歳月を費やして得た成長、コロナ禍の孤独、苦悩の結晶を形に変えた試合直後のインタビューでさえもだ。

 五輪を集大成、一つの区切りと考えるアスリートは多い。4年に1度、わずか17日間のためにさまざまな犠牲を払う。さらに1年延期という未曽有の事態でも日本の選手たちは躍動した。

 柔道は個人競技ながら一つのチームとして9個の金メダルをつなぎ合わせた。鉄棒の種目別で落下した内村航平に「メダルを掛けてあげたい」と橋本大輝は個人総合、鉄棒の2冠を達成。ソフトボールは上野由岐子という大黒柱を中心に、野球は日本のプロ選手が結束して悲願をかなえた。

 コロナ禍で気持ちがささくれ立ち、孤独や不安を感じる人は多いはずだ。お互いの尊重も難しい世の中で、人は誰かに支えられ、一つになって生きているということを東京五輪で再確認した方もいたのではないか。

 国内はまだ「スポーツの力で日本を明るくした」などと軽々しく言える状況ではない。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかる気配はない。入場料収入という大きな財源を失った五輪の後始末の行く末は不透明だ。ただ、選手たちには言いたい。ありがとう、と。(向吉三郎)

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