「一塁側」か「三塁側」か ソフトボール決勝、日米の知られざる攻防

西日本スポーツ

 ◆13年越しの連覇 東京五輪ソフトボール決勝の真実【2】

 東京五輪でソフトボール日本代表は金メダルを獲得し、前回実施された2008年北京五輪から連覇を果たした。東京五輪を「競技人生の集大成」と位置づけ、全身全霊を注いだ宇津木麗華監督。永遠のライバル米国を破った決勝戦の舞台裏を記す。(全3回の2)

   ◇   ◇

 私は米国との決勝を一塁側のベンチで戦いたかった。ソフトボールのベンチは先攻が一塁側で、後攻が三塁側。4勝無敗同士で迎えた米国との1次リーグ最終戦は、世界ランク1位の米国が後攻で同2位の日本が先攻だった。決勝は1次リーグの対戦で勝った方が後攻。だからといって、負けるつもりで臨んだわけではない。結果的にサヨナラ負けしたことで、決勝は先攻の一塁側ベンチに座った。

 一塁側が良かったのは戦略上の理由だった。米国の2本柱、アボットとオスターマンは左腕。一塁側だとフォームが見やすくなる。コロナ禍のため国際大会で米国とは2年近く試合をしておらず、直接対決で得られる生の情報は貴重。米国も決勝で右腕の上野由岐子(ビックカメラ高崎)の先発を想定していたはずだ。同様の考えから、前哨戦に勝って決勝を後攻の三塁側で戦おうと、1点ビハインドの6回にオスターマン、同点の7回にはアボットを投入してきた。

 先攻、後攻について言えば、私はそれほどこだわりがない。延長タイブレークもあるが、それぞれに応じた戦い方があるからだ。いずれにせよ、決勝はお互いに望んだ「ベンチ」で戦うことになった。

 私が「ケンさん」と呼ぶ、米国のケン・エーリクセン監督は早い回から継投で臨んできた。大学での指導経験も豊富で細かい戦術が得意だけに、攻撃では一発長打に加え、足やスラップ(走りながら打つ打法)も使ってくる。私は先発の上野にある程度のイニングを任せる方針だった。彼女なら三塁側ベンチから見られても、相手の狙いを察して裏をかくことができる。

 ポイントは1番打者のマクレニーをいかに封じるかだった。左打者で1次リーグでの打率が6割超。おそらくヒットの半分以上が内野安打ではなかったか。決勝の初回の打席は一ゴロに打ち取った。上野は外角の際どいところを突き、最後は内野安打になりにくい内角に投げ切った。一塁手の内藤実穂(ビックカメラ高崎)もバッテリーの配球を頭に入れながら打球を予測していた。痛烈な当たりを好捕し、何事もないようにさばいてくれた。マクレニーを3打数無安打に抑えて出塁させなかったことも勝因の一つだった。

 米国は世界のソフトボールを引っ張ってきた。五輪では1996年アトランタ大会で競技が採用されてから3大会連続金メダル。世界選手権も私が率いた日本に2012年に敗れるまで7連覇を飾っていた。その米国が08年北京五輪の雪辱に燃えていたのは当然だ。ケンさんも「無敗で(金メダルを獲得して)太平洋を渡る」と豪語していた。一方で試合会場となった福島について「桃がおいしくて食べ過ぎて太ったよ」「福島の方々の協力がピカイチだった」と絶賛してくれたのは心底うれしかった。

 五輪を13年待ちわびたのは米国も同じ。勝負師であり、人間味あふれるケンさんは決勝の後、笑みをたたえて歩み寄ってきた。「チームジャパンと戦えたのは私たちの誇りだ」と力強く抱きしめてくれた。五輪競技としての復活が約束されていないこれからも戦友として高め合っていく。私は大きな背中に手を回しながら、涙が止まらなかった。(ソフトボール女子日本代表監督)=つづく

 ◆東京五輪のソフトボール決勝 日本が1次リーグでサヨナラ負けした米国に2-0で勝利。北京五輪以来13年ぶり2度目の金メダルを獲得した。4回に渥美万奈(トヨタ自動車)の内野安打で先制。5回には藤田倭(ビックカメラ高崎)の適時打で加点した。先発の上野由岐子(ビックカメラ高崎)が2安打無失点と好投。6回に先頭打者の出塁を許すと、左腕の後藤希友(トヨタ自動車)を投入。内野陣の好守もあり、ピンチをしのいだ。7回は再登板した上野が無失点で締めくくった。

 ◆宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

※この記事は、西日本新聞で連載中のコラム「麗しき夢」の第46回として執筆されたものです。

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