ホークス一筋・藤原満さん聞き書き「ぶれない」⑭半ば公然だったサイン盗

西日本スポーツ 野口 智弘

 ソフトバンクの前身である南海で一時代を築いたプレーヤーがいた。ガッツあふれるプレーでファンを魅了した藤原満さん(75)=西日本スポーツ評論家=だ。一昨年に亡くなった野村克也監督の下でチームプレーに徹し、低迷するホークスの中でいぶし銀の活躍を見せた。太いグリップが特徴の「ツチノコバット」を短く持って安打を量産したレジェンドの半生を聞き書き「ぶれない」でお届けする。

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 勝利のために相手の癖や傾向を分析する情報戦は、1970年代から80年代にかけてますますエスカレートします。サイン盗です。どの球団でも半ば公然と行っていました。

 センター後方の観客席から双眼鏡で捕手のサインをのぞき、ベンチにサインで球種を伝えるのです。特定の選手が「打て! 打て!」と叫べば直球、違う選手だと変化球などと決めていました。遠隔操作のバイブレーターをユニホームに装着したこともあったなあ。変化球だとブルブルと震わせて知らせるんですよ。

 相手ベンチに盗聴器を仕掛けたことも。当時は予告先発はなく、先発情報は機密事項。試合前、ベンチ内でのミーティングで先発投手を聞き出したり、試合中の作戦を盗み聞きしたりしたのですね。相手もやっているはずです。だから、ビジター球場ではベンチの天井やコンセントに盗聴器が仕掛けられていないか調べるのが日課でした。

 もう「スパイ大作戦」の世界。どの球団もサイン盗をしているというのが前提ですから、防諜(ぼうちょう)にも熱が入ります。サードの私が1球ごとにサインを出したこともある。バッテリー間のサインは全部うそ。私が腕を組んだり、グラブを外したりすることで次の1球の球種を伝えて投げさせていたのです。

 阪急の大エース米田哲也投手がノーサインで投げているのが不思議でしたが、後で判明。なんと岡村浩二捕手が米田投手の体の横に返球したらスライダー、下だとフォークだったそうです。岡村捕手のコントロールの良さに感服します。

 そして行き着いたのが、乱数表。縦横数列の枠に球種が書いてある表を投手と捕手のグラブに貼り、捕手が指の本数で何列目の何枠の球、と伝えるのです。イニングごとに乱数表を取り換えるので、まず見破られない。しかし、バッテリーがいちいち乱数表を確認しあうので時間がかかって仕方ない。球界で問題となり、使用禁止になりました。

 サイン盗も禁止になりましたが、以降も度々問題になりました。勝利を求めるあまりの行為ですが、外角スライダーと思い込んで踏み込んだら裏をかかれて逆に内角球が来ることもある。実際に頭部死球で選手生命を縮めた選手もいます。このように、危険極まりないサイン盗はやっぱりやるべきではないのです。

 そうそう、近鉄の佐々木宏一郎投手が70年に南海を相手に完全試合を達成しました。実は、佐々木投手の投げた99球は全部サイン盗で球種が分かっていました。でも打てなかった。球種が分かっていても微妙に変化するボールに対応できなかったのです。これぞ、究極の完全試合だといえますね。(聞き手・野口智弘)

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