「あぁ、いいなあ」元バレー代表・迫田さおりがお米作りに熱中する訳

西日本スポーツ

 好きな言葉は「心(こころ)」だという。バレーボール女子元日本代表のアタッカー、迫田さおりさんは華麗なバックアタックを武器に2012年ロンドン五輪で銅メダル獲得に貢献した。現役引退後は解説者などで活躍の場を広げる一方、コロナ禍が続く中、スポーツの魅力を発信しようと自身の思いつづっている。

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 4月から鹿児島県の湧水(ゆうすい)町でお米作りの手伝いをさせていただいています。空気も水もきれいな町で「見えないエネルギー」が心を満たしてくれます。すてきな町名は、霧島山系の良質な水が豊富に湧くことに由来しているそうです。まろやかな味の水はきっとおいしい米を育んでくれるはず。「地元の方々と一緒にお米を作って食べたい!」。白米が大好きな私の夢が広がりました。

 お米といえば東レでの現役時代から胸に刻んでいる言葉があります。「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」です。東レでレギュラーになり、日本代表や五輪でもプレーできるようになった頃。先輩から「応援してもらって当然、なんて絶対ないからね」と諭されました。ファンへの私の対応が素っ気なく映ったのでしょう。高校から東レに入ってからの数年間はサインを求められる機会すらほとんどなかったのに…。頭では分かっていても謙虚さを失っていたのかもしれません。「今が大事だよ」と続いた先輩の言葉が身に染みました。

 「今が大事」なのはお米作りも同じです。5月は田植えに向けての土作りの時期。湧水町で農業に従事する猪俣武さんにアドバイスを頂きながら、先日は初めてトラクターに乗って「田起こし」をしました。田んぼの土を掘り起こし、乾燥させて肥料を混ぜる作業です。こうすると土が空気をたくさん含み、根がよく育つそうです。

 猪俣さんに「田起こし」が米作りで最も重要だと聞きました。派手ではない地道な作業があればこそ、金色に稲が実る晩秋の光景を拝むことができます。初心を忘れず、土台づくりに取り組む大切さはバレーボールも同じ。私もアタックだけでなく、サーブやレシーブなどの基本練習を数え切れないぐらい繰り返しました。稲穂が垂れるまでの工程の大変さを想像し、トラクターのハンドルを握りました。

 お昼は新米をかまどで炊きました。パチパチと火が燃える音を聞き、薪を使い分けて火力を調整するのは楽しい。炊け具合を想像しながら、鍋のふたを開ける瞬間もたまりません。自ら茶わんにご飯をよそい、口いっぱいに頰張りました。米の甘さに、少しだけお焦げも交じった味と香り…。もう何とも言えない幸せな気持ちになりました。

 猪俣さんの田んぼは、お地蔵さまのような「田の神様(かんさあ)」が見守っています。私も「田の神様」の似顔絵を描きました。高校を卒業後に鹿児島を離れた私は、ふるさとの素晴らしさをよく知りませんでした。現役を退き、鹿児島と東京を往復しながら暮らす日々で、故郷に心から「あぁ、いいなあ」と癒やされる場所があることに感謝したいです。

 お米作りはバレーとよく似ている気がします。みんなで同じ目標に向かうからこそ、長い道のりでも頑張れるのではないでしょうか。笑顔になれて、この町の水のように意欲が湧きます。私たちは一人じゃない。猪俣さんたちの力を借り、自分で育てたお米はどんな味になるのか-。想像するだけでわくわくします。(バレーボール女子元日本代表)

◆迫田(さこだ)さおり 1987年12月18日生まれ。鹿児島市出身。小学3年で競技を始め、鹿児島西高(現明桜館高)から2006年に東レアローズ入団。10年日本代表入り。バックアタックを武器に12年ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪出場。17年現役引退。身長176センチ。スポーツビズ所属。

 

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