【コラム】恩師はたった一度だけ渡辺陸に雷を落とした

西日本スポーツ 石田 泰隆

 【コラム:好球筆打】

 電話口の向こうの声は、喜びに満ちていた。当然だ。入団時は育成選手だった教え子が、プロ入り初の先発マスクでプロ初安打を本塁打で飾るなど、2本塁打5打点の大暴れ。鹿児島の高校野球界をけん引する神村学園高の小田大介監督(39)は「うれしいなんてものじゃない。すごいというか、出来過ぎです」と興奮した様子でまくし立てた。

 記念すべき初本塁打のシーンは、じっくり観戦とはいかなかった。この日は勝ち上がった県選抜大会準決勝とホークスの試合時間が丸かぶり。試合後、人づてに活躍の報を受けたようで「打った相手が森下投手というのが、また価値がある」と大喜びだった。

 高校時から185センチ近い体格を誇った渡辺だが、線が細く実績も乏しかったことから、進路に関する調査書が届いたのは地元九州に本拠を置くホークスだけだった。ただ、小田監督は「ホークスのスカウトさんが来られた時だけ2打席連続ホームランを打ったりして。その時からホークスへの縁は感じていた」と懐かしそうに振り返った。

 性格は「優しく、非常に真面目」と渡辺の人間性に太鼓判を押す小田監督だが、一度だけ雷を落としたことがある。渡辺が2年生だった2017年。チームは4度目の夏の甲子園出場を果たしたが、渡辺はベンチ入りメンバーから漏れた。

 ただ、新チームになった時の主要メンバーとして期待していた小田監督は甲子園の雰囲気を感じさせようと、渡辺を練習補助員として登録した。試合中はベンチ横でボールボーイとして雑務をこなす役目だが、そこで「事件」が起きた。

 大分・明豊高と戦った3回戦だった。小田監督は相手の補助員に投げた渡辺のワンバウンド送球を見逃さなかった。「本人にしたら何げなく投げた1球だと思うけど。しっかり相手の胸に投げる、それが基本。なのにあろうことかワンバウンド。相手への敬意が感じられなかった。野球は相手あってのスポーツだということを厳しく伝えました」。普段から周囲へ配慮のできる捕手に成長してほしいとの思いが根底にあった。

 7回までマスクをかぶった渡辺はこの日、不動の正捕手・甲斐がそうするように、毎回、ベンチへ戻っては投手の元へ足を運び、状態の確認とともに鼓舞する配慮を見せていた。渡辺にとってはもちろん、小田監督にとっても忘れられない1勝となったことだろう。(石田泰隆)

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