達川ヘッド「45年前の春、漫画でも描けん物語」とは/ソフトBコラム

 お待たせしました。昨季大好評だった達川光男ヘッドコーチ(62)のコラムを今季もお届けします。笑いあり、涙あり、巧みな語り口で過去、現在、未来を駆け巡る「今昔物語」。今季の第1回は広島商高時代の45年前にさかのぼり、これまで封印してきたという選抜大会決勝での秘話が明かされます。そして、今年のチームのテーマとして掲げた「耐えて勝つ」の心とは…?

 西スポ読者の皆さん、どうも達川です。ご無沙汰しとりました。去年でコラムは終わりやと思っとったんじゃけど、開幕前に告知が出たんじゃ、やらんわけにいかんじゃろ。というわけで、今年も引き受けさせてもらいます。

 高校野球の選抜大会が盛り上がり、今年は大谷の活躍でメジャーの方も騒がしいのお。日本のプロ野球も始まり、球春の到来。野球界にすごく注目が集まっていると思うよ。選抜で大阪桐蔭が2連覇したのは本当にすごいことじゃ。プロの連覇も大変じゃけど、高校野球の連覇は選手も入れ替わって、なかなかできんことよ。

 ワシも恥ずかしながら広商(広島商)で春は準優勝、夏は優勝をさせてもろた。ワシらの年は今で言う「江川世代」じゃった。作新学院(栃木)の江川卓がおって、江川を倒さんと全国優勝はないと思ってやっとった。すごい選手がいるとその年のレベルは上がるんよ。一番のやつを倒そうと思って猛練習するんじゃ。松坂世代もすごい人数がおったし、ハンカチ世代もマー君(田中・ヤンキース)やマエケン(前田・ドジャース)に、たいしたことないけど柳田も出てきとるじゃろ。こんなこと言うたらギータに怒られるかのお。

 あれは45年前じゃから選抜の45回大会。各校が打倒江川で燃える中、ワシらは準決勝で作新学院と当たり、江川を破った。去年のコラムを覚えてくれているじゃろうか。雨で1日順延。江川が取材攻勢で疲れ、旅館のソファーで仮眠したときに寝違えた話じゃ。50歳でその話を聞いたときに江川は「雨が降らなかったら絶対に勝ってた」と言うとった。勝負はときの運とも言われるけど、そういうこともあるんじゃな。

 ここからは45年たった今だから言える話があるんよ。江川を破って忘れもしない横浜との決勝戦。0-0の10回表に1死三塁の守備でウエストを指示したんよ。ワシはそのウエストボールを後逸してしもうた。楽に取れそうな何でもないボールじゃった。1点を献上し、半分泣きながらボールを追っとった。なんしよんやという脱力感じゃった。

 そしたらその裏の攻撃で今度はまさかの出来事が起こった。広商の4番が2死三塁でレフトに打ち上げたんよ。それをレフトの冨田という選手が目測を誤って、通り過ぎよった。それで同点よ。後で何回映像を見ても平凡なレフトフライじゃった。松坂を育てたので有名な横浜の渡辺監督も厳しい顔をしとったよ。

 後日談で、渡辺監督は怒鳴りまくろうと思うとうたらしい。じゃけど、涙ながらに「監督すいません」と言われたときに怒ることはできんかったと。「冨田、次、回ってくるぞ」と声を掛けたらしいんよ。

 ここから漫画でも書けんようなストーリーが起こったんじゃ。彼は延長11回2死一塁で打席に入った。ワシはキャッチャーをやってきて初めてバッターの顔を見たんじゃ。高校野球では試合がどんどん進んでいくんで、相手の顔を見る余裕はないんじゃが、初めて相手の顔をしげしげと見た。「おまえ、なんでエラーしたんや。取っとったらウイニングボールやないか」という感情があったんじゃ。

 そしたらよ、彼はその打席でレフトに2ランを打ったんよ。打たれた瞬間、ワシはとんでもないことを心の中で叫んどった。普段は大きな当たりを打たれたら「入るな~」と念力を込めるんじゃけど、ワシは「入れ~」と思ったんじゃ。ダイヤモンドを一周回ってきて、「おめでとう」という気持ちにもなった。普段はホームランを打たれたら二つのプレーをやっとった。一つはベースを踏むなという念力と、もう一つはベースの確認。ホームランを打たれたらそれしかできんのじゃが、それよりも「ちゃんとベースを踏めよ」と思ったんよ。彼は大きな失敗をしながらも取り戻した。ワシはミスを取り返せぬまま甲子園を去ることになった。取り戻すには夏の優勝しかないと猛練習して、優勝できたのも今ではいい思い出じゃ。

 そろそろわがチームの話にも触れないかんな。開幕3カードを終えて、4勝4敗。けが人も続々と出ており、大変な年になると覚悟せざるを得ない状況じゃな。皆さんはスタートダッシュをした方がいいと思われるでしょうけど、ワシは心配しておらん。ホークスは毎年優勝争いしており、他のチームより1カ月長く野球をやってるからみんな疲れとるし、何かしらけがも出てくる。続けて勝つのは本当に難しいんじゃ。

 福岡に戻った今週は3連戦の後、土曜は熊本でのゲームが組まれとる。熊本といえば数々の名監督を生み出した土地じゃ。名監督は名言も生み出した。打撃の神様とまでいわれた川上哲治さんは「これほどの努力を人は運と言う」と言うた。この言葉にはいろんな意味が込められていたんじゃないじゃろか…。ワシの(広島)入団からお世話になった古葉竹識さんは「耐えて勝つ」とおっしゃった。これは今年のホークスにピッタリの言葉じゃと思う。

 最後に平昌五輪で金メダルを取った羽生結弦の印象に残った言葉がある。大けがを負いながらの金メダルに「努力は嘘をつく。しかし無駄にはならない」と言っとった。すごく奥深い言葉だと思った。今月の格言じゃな。

 今年も月1回とはいかんでも、また思い出したころに書かせてもらおうと思っとる。読者の皆さんにはコラムが遅くなってしまい、失礼しました。3月31日の開幕にいいコンディションで選手を工藤監督に渡せなかったという、ヘッドコーチとしての自責の念に駆られてのお。半世紀近く前じゃけど甲子園での姿を思い出して、最後には取り返したいと思っとる。今年もよろしく頼みます。 (福岡ソフトバンクヘッドコーチ)

 ◆達川光男(たつかわ・みつお)1955年7月13日生まれ。広島市出身。広島商高、東洋大からドラフト4位で78年に広島入りし、正捕手として攻撃的なリードと打者に話しかける独自の戦術で活躍した。92年に引退後は野球解説者のほか4球団で指導者を歴任、99年から2年間は広島で監督を務めた。17年から福岡ソフトバンクのヘッドコーチ。右投げ右打ち。

2018/04/10付 西日本スポーツ

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