FA杉内、涙のソフトバンク退団表明 球団への不信感ぬぐえず巨人入り

 さようなら、ホークス-。福岡ソフトバンクからフリーエージェント(FA)宣言して巨人への移籍を決めた杉内俊哉投手(31)が19日、10年間過ごした愛着ある地元チームに別れを告げた。代理人の酒井辰馬弁護士を伴って福岡市内の球団事務所を訪れ、正式に退団を報告。球団幹部との感情のもつれに査定制度への不満が重なり、チームを離れる決意を固めるに至ったと涙ながらに明かした。午後には東京都内へ移動し、獲得に乗り出していた巨人側に入団の意思を伝えた。

 込み上げる感情を抑えられない。無数のフラッシュを浴びながら、移籍の経緯を説明する杉内の表情が徐々にゆがんでいった。「(昨オフの契約更改交渉で)球団の方からFA権を取っても獲得する球団はない、というようなことを言われて…」。その直後、涙をこらえるように報道陣に背を向けたが、両目から流れるものは隠しきれなかった。

 代理人の酒井辰馬弁護士によると、問題の発言は昨年11月の交渉中に交渉担当の球団幹部から飛び出したという。「正直、杉内本人に伝えるべきか迷ったが、球団の思いを知らずにいるのもよくないと思った。本当に悔しかった」と説明。球団フロントへの不信感は、この日からずっとくすぶり続けていた。

 FA権利を行使した後は「(獲得に)手を挙げてくれた球団に行くと9割以上思っていた」という。それでも11月29日のFA宣言から、巨人移籍を表明するまで3週間もかかった。決断が鈍ったのは残留を望むファンの声援だった。11日の優勝パレードでは、沿道から「(巨人に)行かないで」の声が耳に届いた。一時は“生涯ホークス”を公言していたように、生まれ故郷の地元球団には愛着があった。野球に打ち込む環境には何の不満もなかった。「ファンの声援は熱かった。ホークスに残りたいとも思えた」。周囲の声に心を揺さぶられた。

 それでも根深い不信感は限界を超えていた。「個人の感情でチームを離れるのは大人げないと思ったけど、切れた感情はどうしても元に戻らなかった」。不器用なほど実直で真っすぐな性格ゆえに、心変わりは簡単ではなかった。

 悩んだ末に決意を表明した後は、笑顔も取り戻した。巨人から年俸固定制の4年20億円という好条件を提示され、主に生え抜きの右腕が背負ってきた伝統あるエースナンバー、背番号18を与えられた。「その声(獲得する球団はない)があったから、絶対に他球団の話を聞こうと思った」。球界の盟主に三顧の礼で迎えられ、自らの“市場価値”を証明した。

 プロ入りから10年間で通算103勝を挙げたホークスを離れ、来季は新天地に挑む。「僕の中では一つの時代が終わった。これから新しい時代を築いていきたい」。これまで6度の2桁勝利を記録するなど、ホークス投手陣を支えてきた左腕。東京ドームを舞台に、第二の野球人生のスタートを切る。 (松田達也)

酒井代理人も涙

 球団との交渉にあたってきた代理人の酒井弁護士も涙を流した。杉内がFA宣言に至った経緯を説明するうちに「本人もホークスを出て行くつもりはなかった」と声を詰まらせた。昨年の交渉過程で笠井オーナー代行が交渉担当者の非礼を謝罪。その席で実績が反映されにくい成果報酬型査定の変更を示唆しながら今年提示された契約条件に再び変動制の年俸が導入されたことで「杉内をエースだと思っていることを疑問に思わざるを得ない」と説明。「こういう結果になったのは非常に残念」と肩を震わせた。

笠井代行「残念」

 杉内の流出を受け、14日に代理人との交渉に直接出馬した笠井オーナー代行は、球団広報を通じコメントを出した。「慰留に全力を尽くしたが、引きとめられず残念」とした上で「『男の決断』は重いものであるし、日本を代表する投手として今後も頑張ってほしい」と激励。直接、退団のあいさつを受けた小林編成・育成部長は「球団の考えを一本化し、広報を通じて発信します。私の方からコメントは出しません」とだけ話し、会議出席のため東京・汐留のソフトバンク本社へ向かった。

主力流出防ぐ改善策必要/記者の目

 悲劇が繰り返されたということだ。ホークスは1999年に悲願の日本一を達成したオフ、シーズンMVPの工藤を巨人へのFA移籍で失った。2003年の日本一の後には小久保を無償で巨人に放出。そして今回の杉内だ。いずれも交渉にあたった球団幹部の失言や確執が移籍の引き金となった。登場人物が代わっても、経緯は似通う。

 移籍の発端となった球団幹部の「失言」は元に戻せない。ただ、挽回するチャンスは1年間もあった。両者にできた溝をなぜ埋められなかったのか、その原因を考え直す必要があるだろう。杉内も自らは交渉の席につかず、代理人からの伝聞で「失言」を聞いた。そこで必要以上に感情的になった部分はなかったか。顔を付き合わせていれば状況は変わっていたかも知れない。

 現場は日本一強いチームを目指す。目標は明らかだ。一方で球団フロントのビジョンは伝わりにくい。毎年、優勝するための補強に多額の資金を投入すればそれでいいのか。違うだろう。地域に密着し、ファンに愛されながら、優勝する過程に感情移入をしてもらえるチームづくり。そのサポートこそが最大の仕事ではないか。そのためにも選手との信頼関係を築くことは不可欠だ。

 ホークスは他球団と違い、数年前から球団代表を置かない組織運営を続けている。責任を集約する実務レベルのトップ不在。そのことと今回の放出劇が無関係とは思えない。簡単にエースや4番打者を手放さないためにも、球団の仕事に専念し、バランスよくチームを見渡せる人物を球団代表として据えるべきではないだろうか。 (ホークス担当・久保安秀)

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