「サッカーコラム」J1神戸・山口の「8秒の沈黙」が表すものとは

共同通信

横浜Mに敗れ、うつむきながらピッチを後にする神戸・山口(手前)ら=日産スタジアム 拡大

横浜Mに敗れ、うつむきながらピッチを後にする神戸・山口(手前)ら=日産スタジアム

 ここまでお目にかかれないと、実はバーチャルの世界にしか存在しなかったのでは…。

 そんなことを思ってしまう選手がいる。今季、Jリーグの目玉となるはずだったJ1神戸のスーパースターたち。そう、全員がワールドカップ(W杯)で優勝した経験を誇るダビド・ビジャ、アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキだ。名字の頭文字を取って「VIP」と期待を集めたトリオは、第6節以来、一度も勢ぞろいしたことがない。

 神戸がアウェー・日産スタジアムに乗り込んだ5月18日のJ1第12節・横浜M戦でも、イニエスタとポドルスキが体調不良でメンバー外だった。

 聞くところによると、ポドルスキは試合翌日に神戸で開かれたお祭りに参加しただけでなく、その時の写真を会員制交流サイト(SNS)にアップしていたらしい。チームの内情に詳しい訳ではないが、ポドルスキは神戸というクラブを完全になめている。明らかにばれると分かっていながら、このように投げやりな行動をとるのは「確信犯」なのだろう。元ドイツ代表の10番が日本を去る日も近い気がする。

 大金を出して高性能のレーシングカーを手に入れても、それを乗りこなせるドライバーがいなければ単なる宝の持ち腐れ。結局のところ、現在の神戸はこのような状態なのだろう。

 お目当てのメンバーはそろわなかったが、試合は十分楽しめる内容だった。特に、前節でC大阪に0―3の完敗を喫している横浜Mからすれば、自信を取り戻すには良いきっかけ。会心の試合となったのではないだろうか。

 横浜Mは攻守それぞれで鍵を握る活躍を見せた選手がいた。守備ではGKの朴一圭(パク・イルギュ)だ。GKとリベロの役割を兼務する朴は、前半16分に自らのパスミスからビジャとの1対1のピンチを迎えたが、これを見事にセーブ。続く同17分の西大伍の1対1、後半24分のビジャの決定機をことごとく防ぎ切った。

 これだけでもすごいが、それ以上に利いていたのがDFラインの広大なスペースをカバーするリベロ的な動きだ。

 「なるべく自分は前に出て(ボールを)処理する。そうすればラインを高く保つことができ、押し込まれることもない」

 横浜Mはビジャを始め、最終ラインの裏を狙う神戸の攻撃をうまくわなに掛けた。この日、横浜Mが奪ったオフサイドの数は10。アディショアルタイムに1点こそ失ったが、この日の横浜Mが披露した安定感あふれる守備は、朴の判断の良いペナルティーエリアからの飛び出しがあったからこそ実現したのだろう。

 一方、攻撃面での主役は3トップの左に入った遠藤渓太で間違いない。途中出場した三好康児が2点を奪う活躍をみせただけに、本人は「今日はコウジ君に全部かっさらわれた」と自嘲気味に話した。とはいえ、先制点、2点目をアシストしたことに加え、3点目の起点にもなった。得点こそなかったが、4ゴールを奪った攻撃の偉大な演出者だった。

 特に見事だったのは2点目だ。素晴らしいラストパスでマルコスジュニオールの先制点をアシストした後の、後半22分のプレーだった。

 「あれは完璧だったですかね…」

 本人も満足げに振り返るプレーはワンタッチ目で勝負があった。ティーラトンからの浮き球のパス。ライン際で待ち受けた遠藤はトラップした瞬間にマークする大崎玲央と入れ替わり、ペナルティーエリアに突入した。カバーに来たダンクレーを縦にかわすと、タイミングをワンテンポずらし、GK金承奎(キム・スンギュ)と山口蛍の間を通す絶妙のクロスを通した。そのパスは、フリーで待ち受けた李忠成に「入れてください」というメッセージを付けて贈ったプレゼントのようだった。ちなみに、李はこれが横浜M移籍後の初ゴールとなった。

 現在、21歳の遠藤は来年開催の東京五輪世代。前節は前半で早々と交代を命じられるなど、まだ試合によってパフォーマンスにばらつきがある。

 「だからこそ悪かった試合の後というのはすごく大事になると思う。そういう意味で気持ちを入れてプレーできたと思います」

 若い選手というものはこのような経験を積み重ねて、たくましく成長していく。

 それにしても重症なのは7連敗の神戸。何より問題なのは守備陣だ。1点目から3点目まで同じ形で失点しているのはいただけない。左サイドを突破され、右サイドから入り込んだ選手にダイレクトでシュートを許す形を繰り返しただけで、まるで修正できなかった。ラストパスを出す選手もフリー、シュートを打つ選手もフリーの状態。あまりにもひどく、これではプロと名乗ることは許されないのではと感じるほどだった。

 この日、欠場したイニエスタから託されたキャプテンマークを巻いていたのは山口蛍だった。試合後、内容に関しての感想を問われると、絞り出すようにこう話した。

 「逆にどう思いますか?」

 その言葉が出てくるまでに8秒の間をおいた。そのことが、現在の神戸がおかれた状況の深刻さを表していたのではないだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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