“「憮然」5割超が誤用”は本当に誤用?時代とともに変化する“正しい日本語”とは

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 「姑息=一時しのぎ」「失笑=吹き出して笑う」など、いわゆる“間違いやすい日本語”は度々クイズ番組で出題されたり、絶えず書籍化されたりしている。先月、「憮然(ぶぜん)」の意味を5割を超える人が誤用しているというニュースが話題となった。これは文化庁が平成7年から行っている「国語に関する世論調査」の結果を受けての報道だったが、実は同庁としてはどちらの意味が正しい、誤りという見解は示していない。改めて考える、“正しい日本語”とは。

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■“誤用報道”に困惑?言葉の正誤は文化庁も定めておらず「正解は一つとは限らない」

 文化庁では、世代や地域によって意味の捉え方が異なる言葉を調査することで、国民の国語に関する興味・関心を喚起し、コミュニケーションを円滑にするために、平成14年からほぼ毎年慣用句や熟語の意味の認知度の選択式調査を行っている。

 先月発表された平成30年度の調査では、「憮然」の意味を問う設問があり、本来の意味とされる「失望してぼんやりとしている様子」は28.1%、「腹を立てている様子」だと思っている人の割合が56.7%に上るという報道があり、テレビやネットで話題となっていた。

 これまでも、「姑息=一時しのぎ」(“卑怯な”だと思う人は7割)「失笑=吹き出して笑う」(“あきれる”6割)「にやける=なよなよとしている」(“薄笑い”7割)「割愛=惜しいとおもうものを手放す」(“不要なものを切り捨てる”6割)など、同調査で報告されている、本来の意味とされるものと人々の認識が異なる言葉は、度々クイズ番組で取り上げられたりしている。

 しかし、国が定めた辞書等があるわけではなく、文化庁ではどの意味も正しい、誤りという見解は示していない。同調査内での“本来の意味”は、「辞書等で主に本来の意味とされるもの」を指す。毎年調査結果が発表されるたびに「誤用」の報道がなされるが、同庁ではあくまで意味の認識の違いがあると伝えているだけで、どの意味も「誤用」とは捉えていない。

 同庁国語課が事務局を務める国の有識者会議『文化審議会国語分科会』の報告では「そもそも、言葉は変化するものであり、地域や共同体によっても通用する言葉や言葉遣いが異なる場合もある。同じ意味を伝える表現が複数あるなど、正解は一つとは限らない。」とし、自分自身が正しいと受け止める意味を基準とし、それ以外の使われ方を誤りとみなすことで、コミュニケーションに障害が生まれることに警鐘を鳴らしている。

■あくまで現時点での “正しい日本語”に過ぎない「言葉は変化しながら生きている」

 「言葉はいわば“道具”。正しさは当然大切ですが、“通じるかどうか”に焦点を当てる考え方もある」と話すのは、メディア研究家で、海外の大学やホテルで日本語教師のボランティア経験もある衣輪晋一氏。

 「例えば“危ないですから近づかないで下さい”という日本語を、外国人の生徒に教えるとします。ですが、そもそも“危ない”は形容詞であるため“です”を付けるのは誤用という考えもあります。“です”が丁寧語なのでこれを断定の“だ”に変えると分かりやすい。この文法だと“危ないだ”になってしまうのです。正しいとされる日本語は“危険ですから”、“危のうございますから”。しかし一般的に使われている文法と異なるため、外国人は混乱してしまう。そこで、外国語でも誤用が定着した例は多いため、“間違っているかもしれないけど、これでも通じます”と教えると安心してくれます」(衣輪氏)

 また、アナウンサーでも間違った日本語を使っていることが多いという。例えば「ダントツの一位」。ダントツそのものが「断然トップ」の略なので、「トップ」と「一位」の重複表現になっている。ほかにも「すべて一任する」も間違い。「一任」がそもそも「すべて任せること」なので、これも重複表現だ。これをいちいち指摘していると、“通じるのに間違い?”と混乱ばかりが増えて、日本語を習得する際の障壁になってしまうのだという。

 「“正しい日本語”というものをしっかりと知っておくことはとても大切です。ですが“正しい日本語”は複数の辞書で上位に挙げられているもので、現時点での“正しい日本語”に過ぎないのです。例えば『愛嬌(相手に好感を与え、親しみをさそう振る舞い)』は、古典の時代では“可愛らしく、優しい魅力。深く優しい思いやり”という意味。『あからさまに(明らかに。あらわに)』は、古典では“仮に。ついちょっと”。あと『明日(翌日)』は、本来は“朝、翌朝”を指すのです。古典に合わせるとこれらの今の使い方も間違っている。つまり時代によって、日本語は変化。言葉は古より変化しながら生きているのです」(同氏)

■『広辞苑』も時代の流れとともに意味を追加・削除、表記順も“正しい順”ではない

 そんな中、『広辞苑』では現在使われている意味からではなく、古くから使われている意味の順に記載している。基本方針は「日本語として定着した言葉を入れること」で、世の中の激しい動きにともなって言葉の意味も変化していくとし、1955年の初版からこれまで7回にわたって、言葉や意味を追加・削除している。ここでの「定着」は、人々の会話や報道、インターネット上の投稿などから有識者が判断するという。

 昨年10年ぶりの改定となった第七版では、“ことばは、自由だ。”というキャッチコピーとともに「自撮り」「婚活」「ちゃらい」などの約1万語が追加され、「炎上」の意味は「1.火が燃え上がること」に加え、新たに「2.インターネット上で、記事などに対して非難や中傷が多数届くこと」が明記された。一時的に使われているだけか本当に定着したか判断しかねるため、今回は追加項目として「ディスる」「ツンデレ」は見送られたという。

 辞書も時代の流れとともに新たに定着した意味を追加したりしているのだから、一般的に使われている意味が古くから使われている言葉とは違うために“誤用”と捉えるのは早計かもしれない。実際、“間違いやすい日本語”としてよく取り上げられる「姑息」は広辞苑で最初に示されている古くからの意味「一時のまにあわせ」が正しいとされるが、実は誤用とされる「卑怯なさま」も2番目に表記されているのだ。

 まもなく年末となると注目されるのが、毎年ユーキャンから発表されている「新語・流行語大賞」。おととしは「忖度」、昨年は「そだねー」が選ばれ、今年も「タピる」「闇営業」「にわかファン」などがノミネートされ話題となっているが、時代の流れとともに言葉も意味も変化する中で、その言葉の本来の意味に縛られるのではなく、“正解は一つとは限らない”、“言葉は変化する”という認識を持つことが、多世代・他地域とコミュニケーションをとる上で大切なのではないだろうか。
(文/西島亨)

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