「サッカーコラム」U―23日本代表が逃した貴重な経験

共同通信

 「修羅場をくぐり抜けてきた回数が違うんじゃ」

 かつて人気を博した任侠(にんきょう)映画、菅原文太や松方弘樹などといった主要キャストが最後に決まり事のように口にしたせりふだ。もちろん、静かな立ち姿の中にほとばしる殺気を押し込んでいるがゆえに言葉はなくても、その迫力に圧倒される高倉健のような俳優もいる。

 勝負事の行方は、それまでに積み上げてきた経験に左右される。仁侠映画が伝えるテーマと同じことは、サッカーの世界でも少なからず通じる。そして、味わってきた「修羅場」が過酷なほど、苦しい状況でも耐え抜く力が備わってくる。

 日本があえなくグループリーグで散った23歳以下(U―23)アジア選手権は、韓国代表の初優勝で幕を閉じた。この結果、韓国と準優勝のサウジアラビア、3位のオーストラリアが東京五輪の出場権を獲得した。名前を見れば、2018年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会に出場したアジアの列強が並んだ。

 日本がこの中に入れなかった理由は、単純だ。サッカーが弱かっただけだ。海外組を招集できなかったという言い訳はあるだろう。しかし、同じことは優勝した韓国にも言える。ボール扱いはうまいだとか、ポゼッション率は高かったなどと、何とか光明を見いだそうとする人は多い。だが、ボール扱いやポゼッションはサッカーという競技の本質ではない。そのことを、サッカーに関係する人々がいまだ気づいていない。

 準々決勝から3位決定戦も含めた決勝戦までの8試合。そのうちの6試合が1点差ゲームだった。出場枚数でいえばW杯の32に対し、五輪は16と半分なので、それだけ真剣勝負になったからだろう。ほとんどの試合が気持ちを前面に押し出した「修羅場」という表現がぴったりくる激しいものとなった。

 若い年代の選手は短期間のうちに経験を吸収して成長していく可能性を秘めている。それだけに、日本がこの激しい戦いを経験できなかったことが悔やまれる。

 決勝トーナメントに入ってからの試合は、内容面から見るとそれほど楽しくはなかった。「負けないこと」が前提になるノックアウト方式だけに、守備に対する集中力はグループリーグより高くなる。厳しさを増した守備を崩し切るだけのアイデアを持っているチームは、残念ながら見当たらなかった。つまり、見せ場がほとんど無かったのだ。

 ただ、3位決定戦でオーストラリアに敗れたウズベキスタンも含めた上位4チームは間違いなく財産を手に入れた。真剣勝負に臨む心構えだ。これは、「きれいに勝とう」などとは言ってられない高レベルの試合で真価を発揮する。彼らは現時点でこそ五輪世代だが、五輪が終わる7カ月後にはフル代表へとステップを進める。修羅場を経験した若手が、W杯アジア最終予選を戦う日本のライバルに加わる恐れがあるのだ。気を引き締めなければならない。

 1―0のサッカーほど良い教材はない。筆者はそう考える。負けている試合はもちろんだが、力が拮抗(きっこう)したチームを相手に1点リードしている試合には多くの成長を促す要素が含まれているからだ。特に精神面が鍛えられる。1点差のゲームというのは、リードを失うかもしれないという不安を常に抱えた状態で戦わなければならない。気持ち的に厳しい状況での試合を乗り切れば、大きな自信になるのだ。日本の選手たちが、その厳しい空気を吸うことができなかったのは大きな損失だ。

 Jリーグも含めてなのだが、日本はリードした「試合の閉め方」、つまり終わらせ方がつたないと言われる。負けているチームはリスクを負ってでも点を取りにくるので、スコアは動きやすい。それでも、国際舞台における日本の勝負弱さを目の当たりにすると、精神面の強さはさほどないのではと感じてしまう。

 決勝でカタールに敗れた昨年1月のアジア・カップ。そして、同12月の東アジアE―1選手権では韓国に苦杯を喫した。タイトルを目前にした試合にもかかわらず、日本はあっさりと負けてしまう。リードを許しているにもかかわらず、戦う姿からは必死さが全く伝わってこないのだ。

 本当に強いチームというのは、どんな状況であっても最終的には勝つチームだ。世界を見渡せばそれはドイツであり、Jリーグで言えば一時期のJ1鹿島となるのだろう。その意味で言えば、日本はアジアでも真に強いチームとは言えないだろう。

 根性論がスポーツを支配することには絶対に同意できない。ただ、体がぶつかり合うサッカーでは目の前の敵を屈服させるという気概を持てない選手は役に立たない。修羅場で最後に頼れるのは肝の据わった者なのだ。

 技術や戦術だけで強いチームは作れない。気持ちが欠けてはならない。そして、魂の入った試合で敗れたとしても観客の心にわだかまりは残らない。事実、U―23アジア選手権で4強に入ったチームの戦いぶりからはすがすがしささえ感じた。一方、日本にはそれはなかった。

 残された時間は少ない。Jリーグでも体験できる修羅場をくぐり抜けることなくして、日本の若きサッカー選手たちがその差を埋めることは難しい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で7大会目。

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