「サッカーコラム」日本人のキックは“前時代的”

共同通信

 美技を美技とも見せない。涼しい顔をしてパリ・サンジェルマンの決定機をことごとく防ぎ切り、所属するバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)に6度目の欧州チャンピオンズリーグ(CL)王者の称号をもたらしたマヌエル・ノイアー。間違いなく世界サッカー史に名前を残すであろう怪物GKでも、このシュートを止めることは不可能だったはず―。そんなびっくりするようなワールドクラスのゴールがJリーグで生まれた。

 

 8月23日のJ1第12節、浦和対神戸。1点のビハインドを負った浦和が右コーナーフラッグ付近でファウルを得たことから始まった。武藤雄樹がゴール前に右足で入れたFK。ボールは一度は跳ね返されたが、ゴール正面、ペナルティーエリア外にこぼれたボールにいち早く反応したのが、浦和DFのデンだった。

 

 簡単なゴールではない。ハーフバウンドでわずかにボールが弾んだ瞬間に右足を一閃(いっせん)。ボールは稲妻のようなスピードで、敵・味方が入り乱れる密集地帯をすり抜けるように右ポストを直撃し、ゴールに飛び込んだ。

 

 驚きに沸く埼玉スタジアム。これが通常通りの観客が入っていたら、おそらく聞いたこともないような歓声が響いたことだろう。今季新加入したデンにとってはこれがJリーグ初ゴール。ケニアにルーツを持つ黒人センターバックは「スペシャルに良いゴール」と満足そうに振り返った。続けて「パーフェクトでクリーンなシュートだった」と自らのゴールを振り返った。

 

 移住し育ったオーストラリアで国籍を所得し、今年1月のU―23選手権アジア選手権ではオーストラリア代表の主将を務めた。同国の強豪メルボルン・ビクトリーで本田圭佑と、ともに戦ったこともある才能豊かな若者だ。デンのキックの質は、明らかに育成年代を日本で過ごした選手との技術的違いがある。J初ゴールとなったシュートはゴールまで25メートルの距離があった。

 

 「強いシュートを蹴るのはインステップ」。日本人でサッカーをやったことのある人なら、そう教え込まれているだろう。ところが、デンはインサイドキック気味に親指の付け根あたりでたたいている。インステップで振り切れば、ゴールまで距離があるほどボールは浮く。しかし、インサイド気味で蹴ったからこそ、弾道はGKの膝の高さに抑えられた。

 

 「ああいうキックは持っていた」。デンはそう語る。経歴を見れば2016―2017シーズンには、オランダの強豪PSVアイントホーフェンのリザーブチームでプレーしている。当時、その指導をしていたのがオランダの誇る伝説的ストライカー、ルート・ファンニステルロイだ。PSV、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリードと異なる3カ国のリーグで得点王に輝き、CLでも最多得点者を三回獲得している名手だ。そんなシュートの「マエストロ」に学べば、当然だがキックへの意識は変わる。

 

 欧州のリーグを見ていると気づくのだが、シュートのキックの種類はほとんどがインサイド気味だ。日本の小学生年代では、いまだにインステップキックで強さだけを求める“前時代的”な指導が多い。しかし、ゴール枠に飛ばなければいくら強烈でも絶対に得点にはならない。シュートは正確性。インサイドでも、慣れれば強いシュートが打てるのだ。

 

 第12節の注目カードと言えば、同じ時間に開催された内田篤人(J1鹿島)の引退試合だった。だが、埼玉スタジアムの一戦は見ていて楽しい要素が多かった。イニエスタを故障で欠く神戸は、前節から先発を10人も入れ替えてきた。別のチームといって良い。ところが、普段は先発のチャンスを与えられない選手たちが予想以上の活躍を見せたのだ。

 

 開始15分の先制点は今シーズン初先発の左サイドバック初瀬亮の突破から生まれた。サンペールのパスを左のスペースで受けた初瀬は、ウイングと見まがうような突破を披露。マークにきた浦和MF長澤和輝を縦に外すと、グラウンダーの強いボールをGKと浦和最終ラインの間に入れる。ニアサイドで藤本憲明がつぶれ役になると、浦和DF槙野智章の背後から走り込んだ小川慶治朗がフリーで決めた。

 

 当たり前といえば当たり前なのだが、サイドから攻撃すると、得点の可能性が高くなる。先制点の場面でも初瀬が左サイドを縦に抜けた瞬間、ゴール前に入っていた浦和の守備陣すべてが体の向きを左方向に向け、初瀬とボールの行方を目で追っていた。小川はそのDFの視界に入らない背後から飛び込んだ。このとき、神戸の選手はペナルティーエリア内に5人が入り込んでいた。守備のリスクを冒しても、攻めへ人数を懸けた神戸の攻めへの意識が実を結んだといってよかった。

 

 試合内容を見ると浦和がペースを握った試合だった。だが、決勝点を奪ったのは神戸だった。後半37分、安井拓也が入れた左CKは浦和DFに跳ね返された。デンが得点を奪ったのと同じ位置。今度は交代出場した神戸の山口蛍が、正面ペナルティーエリア外から右足でダイレクトに捉えた。こちらはインステップキックだったが、そこは体を倒して浮かせないようなテクニックを駆使してのシュート。放たれたボールはDFに当たりコースを変えてゴールに飛び込んだ。

 

 控えメンバー主体の神戸が、2―1の勝利。敵地・埼玉スタジアムでの勝利は、じつに11年8月6日以来、9年ぶりだったという。

 

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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