Netflixのエミー賞史上最多ノミネートが日本のエンタメ界に与える変化

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 ストリーミング大手のNetflixが世界最高峰のアワードで記録を塗り替えた。テレビ版のアカデミー賞と言われるエミー賞で、ドラマ、バラエティ、ドキュメンタリーと幅広いジャンルのオリジナル作品が評価され、プラットフォーム別のノミネート数最多記録を更新したのだ。レガシー勢の王者だった米ケーブルネットワークのHBOとの攻防戦に打ち勝ったことも注目されている。この歴史に残る動きは、日本の海外ドラマファンの関心を集める話題にとどまらない。実は日本のエンタメ界全体に影響を与える話でもある。

【写真】「第72回エミー賞」ノミネート発表 『マンダロリアン』が作品賞候補入り

■Netflixがエミー賞ノミネート数160でプラットフォーム別の最多記録を更新

 Netflix作品が160もの最多ノミネートを獲得したのは、今年7月29日に発表された「第72回プライムタイム・エミー賞」である。「エミー賞」は米テレビ界で最高の栄誉とされるテレビ番組に特化したアワードで、映画の「アカデミー賞」、音楽の「グラミー賞」と肩を並べる。テレビ局の編成タイムテーブル表に基づき、番組の放送時間帯ごとに異なる賞が設けられているのが特長のひとつで、「プライムタイム・エミー賞」は、午後6時から午前2時の間に、主にアメリカで19年6月1日から20年5月31日までに初放送されたドラマやバラエティなどを対象にしており、数あるエミー賞のなかで、もっとも注目を集めるアワードである。

 この他には、「デイタイム・エミー賞」や、放送地域を世界に広げた「国際エミー賞」などもあり、ノミネートの常連である日本の放送局からは、2016年にNHKが宮崎吾朗監督アニメ『山賊の娘ローニャ』で受賞している。受賞式は例年、ロサンゼルスのマイクロソフトシアターで盛大に行われていたが、今年は9月20日に開催される。

 エミー賞でNetflixが初めて評価されたのは13年のこと。その作品とは、ハリウッドの鬼才デヴィッド・フィンチャーを監督に迎えたNetflixオリジナルドラマの第1弾『ハウス・オブ・カード 野望の階段』である。Netflixのビッグデータを緻密に分析して、視聴者が求めるものを徹底追求し、米政界の裏側をリアルに描きだした骨太のストーリーも支持され、ネットで初公開されたドラマシリーズとしては史上初のエミー賞受賞となった。1話5億円とも言われる破格の製作費も相まって、この成功例は当時の米テレビ業界に大きな衝撃を与えた。Netflixが驚異的な存在として見られるようになったのも、全てはこの作品の受賞から始まったと言っても過言ではない。

 その後もNetflixの快進撃は続く。エミー賞は、ドラマの作品賞、監督、俳優、衣装、技術といったさまざまな部門、そしてバラエティやドキュメンタリーなど幅広いジャンルに評価基準を置くアワードということもあり、幅広いジャンルを取り揃えるNetflixに有利に働いていった。今回、160ものノミネート数を獲得できたのは、時間帯の制限なく新作を並べることができる配信プラットフォームの特性に加えて、そういった同社のコンテンツ戦略が功を奏したとも言える。

■エミー賞におけるレガシー勢VS配信サービスの攻防戦

 攻勢を強めるストリーミング勢の動きをもっとも意識しているのは、これまでアメリカのテレビ業界を席巻してきたレガシー勢だろう。地上波4大ネットワークのCBS、NBC、ABC、FOXとケーブル局のHBO、FX、ShowTimeらと、Netflixの攻防戦はさまざまな局面で見受けられるが、なかでも、エミー賞で繰り広げられるNetflixとHBOとの白熱した戦いには目を見張るものがある。

 HBOはノミネート数で17年連勝記録を保持していたが、18年にNetflixがそれをストップ。翌19年にはHBOが超大作ファンタジードラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』最終シーズンを引っ提げて返り咲くも、今年はNetflixが巻き返すというように、両者の拮抗状態が続いている。昨年ノミネート数最多137だったHBOは今年107となり、その後にNBCが47、ABCが36、FXが33と続いている。

 ドラマの番組別では、HBOのアメコミを原作としたスーパーヒーローもの『ウォッチメン』(ノミネート数:26)が最多となり強さをみせつけたが、話題性ではNetflixをはじめとする配信勢も負けていない。18年にコメディシリーズ部門をほぼ独占したAmazonプライム・ビデオの歴史ドラマ『マーベラス ミセス・メイゼル』(同:20)、Netflixの犯罪ドラマ『オザークへようこそ』(同:18)と続く。このNetflix十八番の裏社会の闇を描く『オザークへようこそ』の出演者も、主演男優賞(ジェイソン・ベイトマン)と主演女優賞(ローラ・リニー)、助演女優賞(ジュリア・ガーナー)の候補に名を連ねている。

 また、ディズニーが昨年11月からサービス提供を始めたばかりのDisney+作品も、早くもノミネート数で他を圧倒している。ブランド力の高いスター・ウォーズを実写ドラマ化した『マンダロリアン』が15ノミネートを獲得し、ネット配信ドラマの人気を新たに証明したのである。

 配信勢は今後も力を増していくだろう。現状3強と言われるNetflix、Amazonプライム・ビデオ、Huluに立ち向かうかたちで、アップルのApple TV+やDisney+が参戦。今年に入ってからは4月に、元ディズニー会長のジェフリー・カッツェンバーグが立ち上げたモバイル系の『Quibi』、そして5月にはワーナーグループのHBO MAXもサービスをスタート。さらには7月に、NBCユニバーサルのpeacock(ピーコック)も参入した。老舗のスタジオもネット配信に注力するこの動きをみると、エミー賞におけるレガシー勢対ネット配信勢という構図すら過去の話になっていきそうである。

■日本のテレビドラマも海外アワードに勝負できる可能性が

 アメリカで開催される賞レースにおいて、ネット配信作品が主軸になっていく状況は決して他人事ではない。日本でも今後、いくつかの変化が予想される。Netflixが築いた世界同時配信スタイルはDisney+、Hulu、Amazonプライム・ビデオでもほぼ同様に機能し、これによってタイムラグなく日本でも話題と同時に作品を視聴できるようになった。これまではエミー賞受賞作でも日本では未公開、もしくは数年遅れて有料衛星チャンネルで放送されるケースがほとんどだった。生粋の海外ドラマファンであれば、あらゆる手段を駆使してチェックしていただろうが、一般的には遠い存在だった。ところが、今ではタイムラグなしに気軽に視聴できる環境が整えられたため、海外作品ファンのすそ野はさらに広がっていくかもしれない。これが1つ目の予想される変化である。

 2つ目は、Netflixで世界配信され、エミー賞のような世界で認められる賞レースで日本の作品も勝負できる可能性があるということだ。今年2月の「第92回米アカデミー賞」ではポン・ジュノ監督・脚本の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が主要部門で4冠を獲得して世界を制した。世界配信という環境が整えられた今、テレビ界でも同様の動きが起きたとしてもおかしくはない。現に昨年は片づけコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵さんを主役とするリアリティショー『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』(Netflixで全世界配信中)がエミー賞でノミネートされている。Netflixはアメリカ本部発のプレスリリースで「近藤麻理恵さんのメソッドが世界で片付けに対する見方を変えた」と、番組の功績を称えた。アメリカ人プロデューサーによって制作された番組でもあり、純粋な日本の番組というわけではないが、日本語も話す姿の近藤麻理恵さんによって、日本ブームを作るきっかけにもなった。

 最近では、英国アカデミー賞テレビ部門の主演男優賞に、英BBCとNetflixが共同制作したドラマ『GIRI/HAJI』で主演した俳優・平岳大が、アジア人としては初めてノミネートされた。残念ながら受賞を逃したが、世界に活躍の場を広げるための布石を打つ形になったと言える。こうした例もあることから、期待を込めたとしても決して見当違いではないだろう。そういう意味でも、今年のNetflixのエミー賞の最多ノミネート数の更新には大きな意味があり、今後に与える影響は計り知れないものがあると言えるのだ。
(文・長谷川朋子)

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