リーグ制覇は通過点

共同通信

 コロナ禍でのソフトバンクのパ・リーグ制覇。歓喜の胴上げもない。グラウンド中央に全選手、監督、コーチ、スタッフが集まった輪が出来上がると、孫正義オーナー、王貞治球団会長も加わって万歳三唱が行われた。

 もちろん、その後のビールかけもない。苦難のシーズンは異例の喜びの表現で一つの区切りを迎えた。

 ソフトバンクのリーグ優勝は、3年ぶり21度目(1リーグ時代を含む)。勝利監督インタビューに臨んだ工藤公康監督は喜びを爆発させるというより、大任を果たした安堵の表情を浮かべて勝因を語った。

 だが、その指揮官が勝利の瞬間にはベンチで拳を握りしめ、力強くガッツポーズをしている。大きな目が充血しているようにも見えた。

 日本シリーズは、2017年から3年連続で制覇。しかし、直近の2年はリーグ優勝を西武にさらわれていた。

 15年に監督に就任以来、昨年までの5年間で2度のリーグ優勝に4度の日本シリーズ制覇。それでも孫オーナーは「今年こそリーグ優勝しての日本一」を厳命した。

 そこに、このチームの「勝者のメンタリティー」がある。

 完全無欠の日本一。リーグ制覇は通過点であり、セ・リーグのチャンピオンも撃破して初めてシナリオは完結する。もはや、ホークスはそれだけの常勝集団になったということだろう。

 6月19日にずれ込んだシーズン開幕。スタンドには当初、観客はなくチームも万全なスタートではなかった。

 エースの千賀滉大、新外国人のM・ムーアら主力投手が故障で出遅れる。

 打線ではY・グラシアル、A・デスパイネの主軸が、新型コロナウイルスの余波でキューバからの来日が大幅に遅れ、チームリーダーである内川聖一は打撃不振で2軍落ち、松田宣浩も精彩を欠いた。

 6月末には5位に沈んだチームを横目に、楽天とロッテが首位を分け合い、ようやく上位に進出してきたのは7月も中旬になってからだった。

 首位に立ってからもロッテに追い上げられ、10月9日の時点ではゲーム差なしまで詰め寄られた。しかし、ここから怒濤の連勝街道が始まった。

 翌10日にロッテとの直接対決を制すると実に12連勝。この間のチーム防御率は1・17で味方打線は2点を取れば勝てる計算になる。

 ライバルのロッテに大量のコロナ感染者が出るという特殊事情があったにせよ、わずか2週間で流れはソフトバンクに傾いた。

 毎年のように故障者が出て、首脳陣はやり繰りに腐心する。それでいて頂点に立つ。

 ペナントレースで敗れた他球団の監督は、選手層の厚さや経験値の高さに脱帽する。

 今季で言えばこれまでずっとレギュラーを張ってきた内川、デスパイネ、今宮健太の穴を周東佑京栗原陵矢川瀬晃らの若手選手が台頭して埋めてしまう。それができるのも、12球団でいち早く取り入れた育成システムがあるからだ。

 ドラフト外を育成選手として獲得して1、2軍の下に3軍を設けてチーム内の競争を仕掛ける。

 速球なら誰にも負けない投手、強肩の捕手、快足ランナーといった「一芸主義」で集められた若手が、日本一のファーム施設で腕を磨くのだから、1軍のレギュラーでさえうかうかできない。

 今や大黒柱に成長した千賀だけでなく、捕手の甲斐拓也、周東らも育成ドラフトから這い上がってきた。

 工藤監督は勝因の一つに松田だけでなく中村晃長谷川勇也ら生え抜きのベテランの名前を挙げた。

 グラウンド上の働きだけでなく、若手にアドバイスを送り、ベンチのムードまで盛り上げる。ベテラン、中堅、若手が絶えずいい循環をしているからこそ、このチームは強い。

 かつてV9時代の巨人は、リーグ優勝して当たり前、日本シリーズに勝たなければ勝者と認めないチーム内の不文律があった。

 それ以前からプロ野球創設メンバーとしてのプライドがあり「球界の盟主」を自認してきた。

 だが、勝ってこその盟主と規定するなら、もはやその地位はソフトバンクにあると言ってもいい。

 昨年までの直近10年間で、日本一は巨人の1度に対してソフトバンクは6度。昨年の直接対決では4勝0敗で圧勝している。

 豊富な資金力でチームを強化し続ける孫オーナー。巨人時代の勝者のマインドを植え付けた王会長に、指揮官としての勝率が図抜けている工藤監督。

 まだ、11月14日から始まるクライマックスシリーズが残っているが、今年も日本シリーズに進出してくる可能性は高い。

 もちろんその先には巨人との再戦が待っている。ここでも頂点に立つようなら「ソフトバンク王朝」は、揺るぎないものになるだろう。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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