今なお続くおもしろ投稿の元祖『VOW』 令和における“サブカル”の価値とは?

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 SNSの発達によって、世界中の誰もが情報を発信でき、身近な面白いこと・ものを携帯電話ひとつですぐに共有できる現代。だが今から40年ほど前、その役割は、雑誌『宝島』(宝島社)のいちコーナー『VOW』が一手に担っていた。読者が“斜めの目線”で世の中の身近な“おもしろ”切り取り、投稿。編集部のコメントとともに紹介され、人気を博した。現在、女性ファッション誌『sweet』やWebサイトで昔と変わらぬおもしろ投稿を紹介している『VOW』の編集者たちに、令和におけるサブカルの価値について話を聞いた。

【写真】これぞ『VOW』の世界観…「とまれ」の“誤植”がこんなにたくさん

■『VOW』は宝島社のDNAであり、大切にしなければいけないもの

『VOW』の発端は、のちに『宝島』と改名する音楽&カルチャー雑誌『Wonderland(ワンダーランド)』の中の雑誌内新聞『Voice Of Wonderland』。1973年にスタートした当初は街の情報やコラムなどを掲載していたのだが、いつしか読者投稿も掲載するようになり、80年代中頃からは、街で見かけた思わず笑ってしまう看板や貼紙、雑誌や新聞記事の誤植など、“おもしろ画像”を紹介する読者投稿ページとして確立。紹介されたネタは「VOWネタ」と呼ばれ、80年代の日本のサブカルチャーシーンをけん引した『宝島』の看板企画となり、87年からは毎年のように単行本も出版。シリーズ累計930万部を突破するなど、爆発的な人気を博した。

 そんな『VOW』が、『宝島』の休刊にともない、ファッション雑誌売り上げNo.1を誇る『sweet』に移ったのは今から5年前。〈大人可愛いスウィートワールド〉をコンセプトとするメジャーな女性誌に、サブカルチャー誌から生まれ、下ネタも取り上げる『VOW』を移籍させるという“暴挙”を成し遂げたのは、「『VOW』をなくしたくない!」という編集担当者と、「『VOW』の大ファンだった」という『sweet』編集長の熱い『VOW』愛だった。

「『sweet』を選んだのは、弊社の中で一番売れている雑誌だったから。それに加えて、女性向けのおしゃれな雑誌の中に『VOW』があったら、面白い化学反応が起きるかもしれないという期待もあってのことでした。でも、正直、まさか実現するとは思っていませんでした。当時の編集長の渡辺佳代子さんの英断のおかげです(笑)」(宝島社 藪下秀樹氏)

 その『VOW』愛は、今年、編集長に就任した鏡味由起子氏にも継承されている。

「私も昔から『VOW』の大ファンで、その思いがベースにあって宝島社に入社したくらいなので、今でも『sweet』の中で大好きなページだし、コロナ禍で撮影ができなかった時は、一冊まるごと『VOW』にしたかったくらいなんです(笑)。『VOW』は宝島社のDNAであり、大切にしなければいけないものだと思っています」(宝島社 鏡味由起子氏)

 そのDNAを守るために、制作は『宝島』時代と変わらず、2代目総本部長として90年代から『VOW』の制作に携わっている古矢徹氏と前出の藪下氏が担当しているという。

「『VOW』は外部の人間が触っちゃいけない聖域ですから(笑)。『sweet』の中に『VOW』があることについて、古矢総本部長が、“ディズニーランドの奥底にある秘宝館”って表現されたんですが、まさにそういう感じ。若い女性たちに人気のある雑誌の中に、ものすごいものが潜んでいるというミスマッチがすごくいいと思っています」(鏡味氏)

■SNSの発達で玉石混交の時代だからこそ価値がある『VOW』

 現在、SNS上には、毎日のように『VOW』と似たような“おもしろ”投稿が発信されているが、手軽に投稿できる分、おもしろいこととそうでないことが玉石混交しているのも事実。その違いを聞いてみると、『VOW』が長きにわたって愛されている理由が見えてきた。

「『VOW』の面白さは、取り上げるネタがウケを狙っているわけでも、笑ってもらおうとしてやっているわけでもなく、天然のものであること。そして、それを題材に、投稿者がボケて、編集者がコメントで突っ込むとか、逆に投稿者が突っ込んで、編集者がボケるという掛け合いがあること。現在、SNSでは無尽蔵に投稿されていますが、編集者が選別しているわけではないし、『VOW』のような掛け合いはあまりない。投稿する側にとっても、自分が面白いと思ってSNS上にあげて、反応がなかったら寂しいし、反対に、傷つくコメントを受けることもあるかもしれないのかなって思いますね。まぁ『VOW』もよく傷つけているんでしょうけど(笑)」(古矢氏)

 だからこそ、「『VOW』の灯を消したくない」と3人は語る。

「古くからやっている街の中華料理店やジャズ喫茶みたいな感覚でしょうか。時代とともに消えてなくなるものが多い中で、今も続いている、なくなってほしくない店ってありますよね。それがあることで心がホッとするような。『VOW』もずっと忘れていたけど、娘が買ってきたファッション誌を見たら、こんなところにあった、こんなところでまだ相変わらずバカなことをやってたんだ、みたいな存在であればと思っています」(古矢氏)

「私もここにあったのかって気づいてもらえた時がすごくうれしいですね。それに加えて『VOW』の存在を知らない若い子たちは、このページはなんだろうってビックリすると思うんです。でも、知る人ぞ知る存在ってものすごく価値が高いし、『VOW』を知っている人は感度の高い人だと思っているので、目にしたことをきっかけに、70年代からあるんだということも含めて発見を楽しんでもらえるといいですね」(鏡味氏)

■多様化の時代到来で“サブカルチャーの象徴”から変化

 では、かつてサブカルチャーの象徴と言われた『VOW』に携わる立場から、現在のサブカルチャーについてはどんなふうに見ているのだろう。

「サブカルチャーのとらえ方って世代によって違いますよね。僕なんかからすると、伝統的なファッションと違うという意味では、『sweet』などで扱うファッションはサブカルチャーのひとつだと思うし、音楽も『VOW』が立ち上がった当初はストリート系やパンクがサブカル的存在だったかもしれないけど、じゃあ、今、これだけ音楽が細分化されている中で、音楽のメインカルチャーっていったい何なのか。そう考えていくと、メイン、サブの区別はもはや感じなくなっていますよね。『VOW』がメインではないことは確かでしょうけど」(古矢氏)

「『sweet』はどちらかというと、メインストリームな存在だと思うんですが、でも今の若い人たちを見ていると、私もあまりメインとサブの境を感じないので、その流れで『VOW』も注目されるといいなと思っています」(鏡味氏)

 今後も「今までと同じように、流行を取り入れるとか、改革しようとかいうこともなく、ターゲットを定めることもなく、ゆるいスタイルでずっと続けていけたら」と3人。かつて一世を風靡したサブカルチャーの象徴がその姿を変えることなく、ファッション雑誌売り上げNo.1の『sweet』とタッグを組んでおしゃれに敏感な若い女性たちにも広がっている現実を見ていると、令和のカルチャーは、メインVSサブの対立構造ではなく、「相反するものをさらに高い段階で統一し解決する」アウフヘーベンの時代なのかもしれない。

文/河上いつ子

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