世界売上No.1、『ポッキー』ロングセラーの秘密は顧客体験(=CX)にあり

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 江崎グリコのチョコレート菓子『ポッキー』(正式には英語表記でPocky)が先月、「チョコレートコーティングされたビスケットブランドの世界売上No.1」としてギネス世界記録に認定された。『ポッキー』は1966年に「世界初の棒状チョコレート菓子」として発売されて以来、半世紀以上にわたって支持されてきたロングセラー。長年にわたり国内外で親しまれている理由、それは、ポッキーが顧客の体験価値(Customer Experience=CX)を常にアップデートし続けてきたからではないだろうか? 日本能率協会コンサルティングの佐藤秀祐氏に、『ポッキー』が愛され続ける理由について考察してもらった。

【写真】ヨーロッパや香港でも! 海外版『ポッキー』のパッケージ

 細長くてチョコレートがコーティングされた「持ち手」付きのあのお菓子。老若男女に愛されるあのお菓子。11月11日といえばあのお菓子。今や日本のみならず海外でも販売され、ヨーロッパでは『MIKADO』という名で浸透しているあのお菓子――。ギネス記録にも認定されるなど絶大な人気と売上を誇る『ポッキー』は、もしかすると食べたことがない人のほうが少ないかもしれません。

 これまで、実は似たようなお菓子がいろいろなメーカーから発売されていますが、棒状のビスケットにチョコレートがコーティングされていると、人は「ポッキーみたいだね」と思うわけです。これって、すごいことだと思います。

 では、なぜポッキーはこれほどまでに愛され、半世紀以上にわたるロングラン商品となっているのでしょうか。おいしいから? 値段がお手頃だから? スーパーやドラッグストア等どこでも売っているから? もちろんおいしいですし、筆者も大好きなお菓子で、ランチの帰りにコンビニでコーヒーと一緒に購入しますが、決してそれだけではないと思うのです。『ポッキー』の真価は、CXにあります。

◆ライフステージごとにさまざまな体験を提供

 そもそも、『ポッキー』という商品名は、食べた時に聞こえる「ポキン、ポキン」という擬音語をヒントに付けられています。商品名を見ただけで、みんながなんとなく、どんなお菓子なのかの想像がつく。これは1つの立派な顧客体験と言えます。

 また、この記事を読んでいるみなさんも、経験したことがあるのではないでしょうか。11月11日の「ポッキー&プリッツの日」には、自分の好きな味やタイプのポッキーを持って学校に集まり、お昼休みや放課後に友だちと一緒に食べながらダベる。楽しいですよね。そもそも、ほかのお菓子に「記念日」なんていうものがあるでしょうか。あったとして、ここまで浸透しているでしょうか。ポッキーが愛される秘訣は、こういったCXを生み出し「続けて」きたことにあります。

 おそらくメーカーである江崎グリコ社も、54年前のポッキー開発時に「CXを創り出す商品を!」とは考えていなかったのではないでしょうか。その頃は、CXなどという言葉もありませんでしたから。しかし、改めて今日的なマーケティングの核となるコンセプトであるCX視点でポッキーを見てみると、ポッキーはまさに「CXの創出」により愛される商品になっていると考えられるのです。

 筆者の家族・友人・同僚にポッキーにまつわる思い出を聞いてみたところ、こんなCXがありました。

「季節限定のポッキー、1袋に5~6本しか入ってないのに、『ちょうだい』って言われて差し出したら2本取られてムカついた!」

「昔、サークルで“ポッキーゲーム”(2人で両端を加えて食べ進めるアレです)したなぁ…ちょっと口当たった。男同士だった(泣)」

「おみやげに“ご当地ジャイアントポッキー”を親が買ってきてくれたときは、テンションが上がった!」

「1人晩酌で、ポッキーをマドラーにしてウイスキーを飲んでいるときは、なんとなく高級な自分がいるんだよね」

「当時、イメージキャラクターとしてポッキーのCMに出ていたガッキー(新垣結衣)が可愛かったけど、次にCMに登場した忽那汐里も可愛くて、どっち派か激論したなぁ……」

「留学していた頃、ホストファミリーにポッキーをオススメしたら、みんなハマって買い占めていた」

 このほかにも、Twitterを少し覗いて見るだけでも、いろいろなCXが挙げられています。

 たとえば、「ポッキー&プリッツの日」だからと、おやつに『ポッキー』を買ってきた母と子との微笑ましいやり取りがあったり、冬季限定の『冬のくちどけポッキー』などの期間限定商品の発売に季節を感じ取っている人がいたり、歴代のポッキーのCMについて分析をしている猛者がいたり。こういった投稿からも、ポッキーがたくさんの顧客体験を生んでいる様子が見て取れます。

◆シンプルイズベスト? カスタマイズのしやすさが体験を伝播させる

 このように、ポッキーは世代を超え、人と人とのつながりという体験を創り出しています。

 また、SNSをはじめとするメディアが発達しているこの時代においては、消費者がほかの消費者を見て、「こんな楽しみ方があるんだ」「私もやってみたい」という体験の伝播が起こったりもします。これだけさまざまな体験を創り出しているのは、ポッキーという商品が「シンプル」であることにも由来します。

 シンプルであるということは、カスタマイズの余地が大きいということです。たとえば、自分の好きなようにデコレーションする“デコポッキー”やポッキーを活用したスイーツ作りなど、人によって、シーンによって、どう楽しむかを変えることができる、すなわち体験を創り出しやすいのです。

 複数の機能や要素を持つ商品は、特定のシーンには真価を発揮しますが、幅広いシーンで活躍するかと言われれば、そうではありません。そういった商品が悪いというわけではなく、ある瞬間に絶大な効果を発揮するということは大きな価値ではありますが、ポッキーは幅広く、1人で楽しんでもよし、みんなで楽しんでもよし、いろいろな体験に寄り添えるのです。また、それを実現できるのは、形状によるところも大きいと言えるのではないでしょうか?

◆「体験」を拡大し続ける、メーカーのマーケティングの妙

 これまで、ポッキーによるCX創出を見てきましたが、今度はメーカー側にも注目してみましょう。

 メーカー側は、これらの「ポッキーが消費者の体験を創っている」という実態を見逃さなかったのです。そして、それを後押しする取り組みを推進したことが、同社のマーケティングの上手いところです。

 CMでも、味などの魅力ではなく、ポッキーを食べながら話す場を作る体験にフォーカスしていたり(現在放送中のCMでは、女優の宮沢りえと南沙良が出演し、母子で楽しく会話する日常が描かれている)、バレンタインの時期に期間限定で『スッキー(Sukky)』『ギリッキー(Giricky)』というように改名して商品を販売したり。さまざまなマーケティング戦略を行ってきた江崎グリコ社ですが、その最たる例が、冒頭に記述した「ポッキー&プリッツの日」です。

 さきほど、メーカーが当初からここまでのCXを創り出そうとしたわけではないはず、と申し上げましたが、ここから先が上手いのです。メーカーは意図せず生まれたCX、すなわち「実際はどのような楽しまれ方をしているのか」を知り、そこに注目して、11月11日に記念日を設定することでレバレッジ的に、それまでポッキーになんの体験もなかった人のCXをも生み出したのです。そして、それを広げ続けています。

 もちろん、結果的に商品の認知度や売上も広がってはいますが、話題を生み出し続けていくことで「体験」を拡大していっていることこそが巧みなのです。

◆ロングランヒット商品は、CXを広げ続けている

『ポッキー』をはじめとするロングランヒット商品は、どこかでCXを創り、広げ続けています。1本のプレッツェルが、世代を超え、コミュニケーションを創り、カスタマイズされています。そういった要素をすべて包含するのがポッキーであり、さらにメーカーのマーケティングのワザも光るとなれば、まさに鬼に金棒です。

 なお、今回はCXを中心に掘り下げてきましたが、『ポッキー』がロングセラーであり続けているのは、味やパッケージの改良を始めとする商品の機能強化から、マーケティング戦略の見直しなど、企業としてあくなき挑戦・改革が行われ続けていることが前提にあります。

 しかしこれからは、それだけではなく、その先にある「商品・サービスがもたらす体験」「その商品・そのサービスでないと味わえない体験」を企業が描けるかどうかが、競合他社の中から抜きん出るためのポイントになっていくのではないでしょうか。

 いろいろ語ってまいりましたが、『ポッキー』の楽しみ方に正解はありません。いつ食べるか、誰と食べるか、どう食べるか、それは消費者次第です。ただ、食べるときにこの記事を思い出して「体験」を意識していただくと、いつもとは違った楽しみ方ができるかもしれません。

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