『グレーテルのかまど』、料理番組に”物語性”取り入れたワケ「時折り見せる演者の”素の表情”が癒しに」

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 瀬戸康史が「15代ヘンゼル」を、キムラ緑子が「魔法のかまどの声&ナレーション」を務める『グレーテルのかまど』(NHK・Eテレ)。2011年にスタートした同番組は、今年で10年目。最近では、「クイニーアマン」や「おジャ魔女どれみ」など、取り上げるお菓子や作品名が放送後にSNSのトレンド入りをはたすことも多い。いわゆる料理番組とは異なり、作る場面やレシピは紹介されるものの、「お菓子」とそれにまつわる物語が毎回綴られていく異色の番組がどのように生まれたのか。同番組のプロデューサー・上田和子さんに聞いた。

【写真】アニメのお菓子をレシピから再現してトレンド入り…『おジャ魔女どれみ』のケーキ「愛しのトゥルビヨン」

■「やっぱり“物語”というものに人は惹かれますよね」

「私自身、少し前からオンエアされるときにはツイッターをチェックしながら、番組を観ています。視聴者の皆さんの好奇心と視点には感心させられることが多くて。リピートして細かなところまで観てくださっている方もたくさんいるんですが、毎度『こういうところでハネるのか』という驚きがありますし、こちらが『ハネると良いな』と思っていたところで実際に反響があると嬉しいですし、気づかなかったポイントで盛り上がったりすることもあって、作り手としてもすごく勉強になるんですよ」(上田さん、以下同)

 そもそも過去に類のない「お菓子と物語」というコンセプトの番組は、どのように生まれたのだろうか。

「私は2代目プロデューサーで、7年ほど携わっているんですが、番組立ち上げには非常に年月がかかったそうです。もともと『働いている女性をメインターゲットに、仕事で一息つくような時間帯に放送される、ちょっと幸せになれるような番組を作りたいと思った』という話から始まっていて。災害時などによく言われるんですが、お菓子って絶対必要なものではないかもしれない。でも、あるとホッとする、ふと力が抜ける、日常から離れられる、“小さな幸せ”をくれるものじゃないですか。

 それをどう番組にするかと考えた結果、“物語性”を持たせることに。立ち上げ当初は、スタッフも料理番組の経験があまりなかったと聞きます。私も料理番組は未経験。『レシピどうしよう』『“甘じょっぱい”って表現は使っていいのか』なんて疑問から始めたくらいで。当時は『きょうの料理』をやっているチームが自席の近くにいたので、色々相談することもありました」

 番組には、童話や小説、海外文学、漫画、アニメ等の作品に出てくるお菓子から、文豪や女優をはじめ、著名人が愛したお菓子、さらに今では「土地の物語」や「歴史の物語」など、幅広い「物語」が登場する。お菓子と、それにまつわる「人」や「歴史」などの物語を、コンパクトかつ情報量たっぷりにまとめる番組構成には、唸らされることも多い。

「番組の設定自体が『ヘンゼルとグレーテル』という“物語”から派生したファンタジーの世界です。やっぱり“物語”というものに人は惹かれますよね。ただ美味しいよりも、『これはなぜ〇〇だったんだろう』『あの人はこれが好きで…』『この映画には□□が出てきて』などと、次の日に会社や学校で話題にできるようなお話が、ひとつあるようにしたい。それは昔から変わらないコンセプトです」

■演技なの?演技じゃないの? 垣間見える俳優の“素”に視聴者は注目している

 番組の反響として、ヘンゼル役の瀬戸康史の魅力を挙げる声も多い。そもそもなぜ彼を起用したのか。また、「俳優」を起用するメリットとは?

「もともとヘンゼルとグレーテルの末裔が渋谷の松濤あたりに住んでいるという設定なので、日本人の方で『ヘンゼル』という名前や設定に違和感がない、透明感のある方がブッキングの理由でした。番組が始まったばかりの頃、瀬戸さんはまだ20代だったので、お料理も全然していなかったそうですが、本当に器用な方で。番組開始前のテスト段階から、監修者たちから歓声があがるほどだったと聞いています。最近はプライベートでも作っていらっしゃるようで、今では本当に上手ですよ。最近もスタッフの間で話題になったんですが、予定収録時間よりだいたい早く終わるんです。コロナ禍の5月に振り返りとして、初期に収録したチョコレートの“テンパリング”という技法を最近のものと並べて見比べてみたら、歴然たる違いがあって。かなり腕が上がっていらっしゃるんですよ」

 “ヘンゼル”を演じながら料理をする…という番組設定も相まって、これは演技なのか素なのか、思わず視聴者をドキッとさせる瞬間がいくつも見受けられる。演技に長けているからこそ可能になるセリフ回しや間の使い方、上手くできなさそうなときのほとんど“素”が出た臨場感あるしぐさーー。その2つを同時に打ち出すことができるのは、この番組ならではの魅力。特にそれを感じるのが、キムラ緑子演じる「かまど」と、瀬戸康史演じるグレーテルの掛け合いシーンだ。ツイッターでは、2人の印象的なやりとりがつぶやかれることも。

「キムラ緑子さんはナレーションが非常にお上手で、台本をかなり読み込んできてくださいます。その回にあったテンションや声質を変幻自在に使い分けてくれているんです。それとは別に、ヘンゼルとのトーク部分では、緑子さんも瀬戸さんも、最近は台本通りにまず言わない(笑)。お菓子の工程は大切なので、台本は緻密に書きますが、お二人はもちろん基本の流れは守りつつも、アドリブ満載です(笑)。そこは、スタジオでトークしていただく醍醐味なのでウェルカムで、お二人のノリを壊さないように、やり直しもできるだけしません。アドリブの部分は制作側からすると『いただき!』という感じで(笑)。実際、そこがツイッターでハネたりもするので、『さすが視聴者さん!』と思っています」

 ヘンゼルとかまどの掛け合いは、どんどん自由になっている印象が。そこは、10年の間に積み上げられた互いの信頼や、阿吽の呼吸があってのものなのかもしれない。

「お二人ともありがたいことに、この番組を本当に愛して下さっていて。この番組について語られるときは、お二人とも異口同音に『癒しです』とおっしゃるんですよ。大変な映画や舞台などがある中で、当然疲れていらっしゃるときもあると思うんですが、お二人ともこの番組に出るときは『素です』『まんまです』とおっしゃるんですよね。実は長年の中で、キャラや関係性も少しずつ変わっていて。今はヘンゼルが主導で進める部分もありますが、最初の頃はかまどがもっとガミガミ言っていたんです(笑)。それが今では、ヘンゼルの腕がどんどん上がっているので、ある意味リスペクトし合う関係になっています」

■“クイニーアマン”が突如トレンド入り…番組で取り上げるお菓子の共通事項とは

 放送を見ていつも巧みだと思うのは、作品の題材選びの妙だ。最近では、予告で次週の題材が発表された途端に、SNSでトレンド入りすることもある。ネタ選びはどんなことを意識しているのだろうか。

「テレビなので、季節や旬の題材というところは大事にしていますが、その一方で『誰の』『どの作品の』というところ以外で、実は面白い物語が見つかる…なんてことも多いんですよ。実は私がプロデューサーを引き継いだ頃には『ネタがない』とも言われたんです。でも、あるんですよ、お菓子って。お菓子の情報そのものが増えていることもあるし、誰でも1人1つくらいは大好きなお菓子ってありますよね。あとはこの番組と相性の良い著名人のセレクトが大事で、素敵な物語を見つけては紡いでいく流れです。味の傾向やお話の傾向で似たものが続かないようにという配慮だけはしていますけどね」

 最近では「クイニーアマン」や「『おジャ魔女どれみ』の愛しのトゥルビヨン」など、SNSでバズるお菓子も度々登場している。SNSの反響について、上田さんは次のように語る。

「確かにSNSの浸透は大きいですよね。クイニーアマンの回なんて、何事かと思うくらい翌日まで盛り上がっていましたし、『おジャ魔女どれみ』もとにかく時間がかかる大変なお菓子でしたが、すごく反響がありました。それから、“『ジョジョの奇妙な冒険』のごま蜜だんご”を扱ったときは放送前から反響がすごくて、臨時再放送もさせていただいたくらいでしたね。

 ときどきすごく手間のかかる大変なお菓子なども扱いますが、『おうちで作れるお菓子』を鉄則としていて、どんな素敵なお菓子でも、材料が日本ではインターネットでも手に入らないようなものは扱いません。特殊な機械を使わないと作れないような工業的なお菓子も扱っていないですね。それに、SNSの反響は意識していますが、この番組はもともと『時差視聴』といって、録画して観る方が多く、視聴率という意味ではあまり変わらないんですよ。『お願いだから、DVDを出してくれ』とか『ハードディスクがもう一杯だ』という方もいますし(笑)、問い合わせも週末に来ることが多いんです」

■コロナ禍で高まった“お菓子作り熱”「その喜びを皆さんとシェアしていきたい」

 生きていくうえで、絶対に必要なわけではない「お菓子」。しかし、コロナ禍のステイホーム期間には、小麦粉が店頭から消えるなど、“お菓子作り熱”の高まりを感じることも多かった。

「『わざわざ手作りする人がこんなにいるんだ』という驚きがありました。でも、こんな時代だからこそ、お菓子に癒しを求める人が増えているのかもしれないですね。番組自体は、SNSで『これってリモート?』というつぶやきや、『もともとこの番組、リモートみたいなものだもんね』なんて指摘もあって、確かにと。もともとリモートに近い作り方なので、実は先取りしていたのかなと気づかされたこともあり、あまり状況が変わらず収録できています」

 番組は10年目に突入したが、「まだまだやっていないお菓子」「やってみたいお菓子」はたくさんあると、上田さんは語る。では、今後の展望とは。

「今はこういう時期なので、取材できる場所や方向性を模索している部分もあります。長く番組をやっていることもあって、同じ人がまた登場することもあります。例えば、夏目漱石は『ようかん』と『苺ジャム』で2回やっていますが、甘いモノ大好きおじさんなので、本当は漱石月間をやっても良いかなと思っているくらいなんですよ。『赤毛のアン』なども、素敵なお菓子がたくさんあるので、もっともっとやりたいくらい。

 また、今はコロナ禍の影響もあり、いろんなお店がたたんでしまっていたり、消えていってしまったりするものもあり、何か支えになれればうれしいです。そこにしかないお菓子も多いので…だから、東村アキコさんの『鯨ようかん』のように、その地方でしか買えないお菓子なども取り上げ、その喜びを皆さんとシェアしたいと思います」

(取材・文/田幸和歌子)

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