「攻める守備」で守備率10割の金字塔

共同通信

 球界を代表する守備の名人、広島・菊池涼介が新たな金字塔を打ち立てた。

 11月11日に今季の全日程を終了した広島だが、菊池は二塁手として史上初の守備率10割の無失策記録を達成した。

 巨人・坂本勇人内野手の2000安打や、ソフトバンクの千賀滉大の投手3冠といった派手さはないが、とてつもない快記録である。

 既に10月15日の巨人戦の時点で1993年の和田豊(阪神)の持つセ・リーグ守備機会連続無失策記録(432)を27年ぶりに更新していたが、その後も記録を更新。最終的に503まで伸ばしてシーズンを終えた。

 日本野球機構(NPB)による守備記録の規定試合数は、チーム試合数の3分の2以上で、二塁手の同一年守備率では87年の高木豊(大洋)の9割9分7厘を抜くプロ野球記録となった。

 ちなみにシーズンの無失策記録は一塁手や外野手では珍しくないが二塁、三塁、遊撃手では初のこと。球史に残る名内野手でも実現不可能だった領域に菊池は足を踏み入れたことになる。

 内野を守る中でも特に難しいとされるのが二塁手と遊撃手だ。

 まず、守備範囲が広い。次にバッテリーや外野手との連係プレーが求められる。盗塁やバントでのベースカバーに併殺プレーの完成。昔から強豪チームを作るには二遊間を中心としたセンターラインの強化が絶対条件とされる。

 これらのどこかで一つミスをすれば守備率10割は達成できない。菊池の場合はこうした基礎編は当たり前のようにこなした上で「忍者」と呼ばれるスーパープレーまで連発するのだから規格外の二塁手と言えよう。

 昨年まで7年連続でゴールデングラブ賞を受賞していて、8年連続も当確だ。

 今年の快記録達成に菊池は「際どい球を行かずに達成した記録ではなく、攻めた結果でできたのは嬉しい」と語っている。「攻める守備」。これこそが名人の真骨頂である。

 投手の頭上をふらふらと抜ける弱い打球に猛ダッシュして倒れながら一塁へ送球。センター前に抜けるかという打球に飛びついてジャンピングスロー。

 右前打と思われた瞬間にスライディングで好捕して無駄のない動きで送球。並みの野手なら飛びつかない、もしくは同じ挑戦をしてもミスにつながるケースも多い。球際の強さが菊池の守備の特徴だ。

 高校時代は三塁手。中京学院大では主にショートを守り、投手も務めた。

 入団時の記録では50メートル走で5秒9と俊足をアピールし、遠投は117メートル。当時のスカウティングリポートでは「守りで飯が食える」と記されている。

 なるほど俊足に強肩だから広い守備範囲も正確な送球も可能なわけだ。そこへプロとしての経験が蓄積される。

 打球方向のデータ研究に始まり、個人的な感性も加味。打者のスイングの軌道を見ながらポジションを1歩、2歩と変える。名人芸はこうした努力の結晶でもある。

 菊池の守備は世界に知れ渡っている。2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表として出場すると、オランダ戦の美技にメジャーリーガーも絶賛した。

 インターネットで世界に放映する「MLB.TV」では「日本の二塁には神がいる」と衝撃映像とともに紹介された。

 そんな感触もあったからだろう。昨年オフにはポスティングによるメジャー挑戦を表明、一度は広島を去る決断をした。

 だが、パワー全盛の米国は守備のスペシャリストの獲得に動かなかった。広島残留を決めた菊池にとって、今季は恩返しのシーズンとなった。

 コロナ禍の中で開幕を迎えたシーズンは、例年以上に難しい戦いとなった。個人的に体調を整えるのは当然として、チームは大瀬良大地、野村祐輔らの投手陣が故障で戦線離脱したこともあって、5位に終わった。

 菊池自身も開幕から打撃が振るわず、定位置である2番から下位に回ることも多かった。

 それでも「バッティングが駄目なら守備だけでもチームに貢献したい」と念じた結果が無失策記録につながった。

 次なる目標は94年に日本ハム・白井一幸が樹立した545連続守備機会無失策の二塁手プロ野球記録の更新となる。

 あと43の守備機会を処理すれば抜くのだから、菊池の守備力を考えれば不可能な数字ではない。

 日頃は注目度の低い守りの重要性と卓越した技を名人芸にまで昇華させた男。球史に名を残す菊池の、次なる挑戦が楽しみである。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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