20年ストリーミングシーンでインディペンデントアーティストが本格的に台頭した理由

オリコン

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、外出の自粛が要請されるようになった今年4月以降、ストリーミングランキング上位に、瑛人「香水」をはじめ、Tani Yuuki、yamaといったインディペンデントアーティストの楽曲が常時ランクインするようになった。それら楽曲はいずれも個人アーティスト向けの音楽デジタルディストリビューションサービス「TuneCore Japan」を通じて配信されている。国内でもインディペンデントアーティストが本格的に台頭し、インディペンデントシーンのシェアが広がる現状を、同サービスを運営するチューンコアジャパンの代表取締役社長・野田威一郎氏は、「ストリーミングのエコシステムが整ってきたから」と分析する。

【図】2020年ストリーミングTOP10内インディーズタイトル数の推移

■「ストリーミングのエコシステム」が整備されたことでストリーミング市場が急拡大

 チューンコアジャパンは今年6月、同社が運営する音楽デジタルディストリビューションサービス「TuneCore Japan」のアーティスト・レーベルへの還元総額が、2012年のサービス開始以来100億円を突破したことを発表した。利用者であれば誰でも自作曲を約46の配信ストア・185ヶ国以上へ配信できる「TuneCore Japan」の最大の特徴は、利用者へ “収益の100%還元” を行っていること。その還元額の推移を見ると、18年頃からサービス利用が伸長し始めたことがわかる。

「手応えを感じ始めたのは、18年の途中からです。TuneCore Japanを通じて配信する様々なジャンルのアーティストの楽曲が、各配信チャートに入るようになりました。やはり、若年層がLINE MUSICなどのストリーミングサービスを利用するようになったのが大きかったですね。それが契機となって、音楽ストリーミングサービス全体の利用者が増加しました」(チューンコアジャパン代表取締役社長・野田威一郎氏/以下同)

 今年に入って1~3月中旬までは、オリコンストリーミングランキングTOP100圏内にランクインするインディペンデント作品は毎週5作前後だった。しかし今年4月に緊急事態宣言が発令されて以降、状況は一変。上位に入る楽曲数はそれまでの倍以上に伸長し、5/11付で瑛人「香水」がランキング1位を獲得するエポックメイキングな出来事も起きた。今では、TOP100の約2割は常にインディペンデント作品が占める状態になっている。この状況を生み出しているのが、野田氏が言うところの「ストリーミングのエコシステム」、つまりヒットを生み出す環境が整備されたからなのだ。

「若年層を中心にTikTok、Instagram、YouTubeなどのSNSを通して手軽に音楽が拡散され、プロモーションできるようになりました。利用者は選曲しているというよりは、何となく自分の動画に合うなと思って遊んでいるうちに広まっていって、その結果、使われた曲が多くの人に気に入られて、楽曲の再生につながるという流れがインフラ上で起きています。この状況は、今後さらに加速するでしょう」

■“ストリーミングはもうからない”イメージを塗り替えたHIP HOPアーティストの活躍

 チューンコアジャパンが12年に配信サービスをスタートさせて8年。今でこそ、インディペンデントシーンは盛り上がりを見せているが、ここまでの道のりは長かった。
 
「当時、ストリーミングサービスはまだ登場しておらず、ダウンロードサービスだけ。しかもiTunes Music Store やAmazon、moraとサービスも少なかったためデジタル市場は小さく、我々のサービスは見向きもされませんでした。ダウンロードで1発目のヒットとなったのがラッパーのKOHHくんで、その後、『フジロックフェスティバル』に出演したり、宇多田ヒカルさんの復帰作『Fantome』に参加したり、海外のアーティストとの客演するなどして人気を博していきました。15年には複数のストリーミングサービスが立て続けに始まり、これで一気に風向きが変わると期待したのですが、日本ではストリーミングサービスの発展に結構時間がかかりましたね」

 その理由は複数挙げられるが、なかなか配信楽曲数が増えなかったことや、CDに比べて“ストリーミングはもうからない”というイメージが根強かったことも弊害になった、と野田氏は考えている。しかし、そのイメージも、CDの売り方とは異なるストリーミングの特徴を理解して、再生数を積み上げていったHIP HOPアーティストたちの活躍によって、徐々に変化していったという。

「サービスを利用するHIP HOPのアーティストがもうかった感を上手く出してくれたんです。海外のHIP HOPアーティストや、国内のYouTuberはヒットすると羽振りの良さを表に出しますよね。その姿を見て若い子たちもそうなりたいと目指すようになる。彼らもそうやってヒット感を出してくれたので、それを見た人たちに我々のサービスが認知され、次第に利用者が増えていきました。ストリーミングの収益を実感するには時間がかかります。CD販売の短期的な時間軸で考えると “ストリーミングはもうからない”となってしまう。確かにストリーミングはリリースした2~3週は再生数が多くて、その後下がっていきますが、いったんプレイリストに入れば、好きな人はずっと聴いてくれますし、継続的にリリースしていけば、新曲に引っ張られて他の曲も聴かれるので、それが積み上がっていって一定の収益となるんです」

■インディペンデントアーティストの プロモーション意識の高まり

 同社ではこれまで、配信先の拡大や、利用者のニーズに応えた様々な新機能の追加はもちろんのこと、配信サービスで役立つ情報をシェアするための勉強会「ARTIST LOUNGE」も定期的に開催して、利用の活性化を図ってきた。そういう活動を通して、インディペンデントアーティストのプロモーション意識の高まりを野田氏は実感している。「当社サービスの中に、“サブミット機能”があるのですが、その問い合わせがもっとも多いんです」。

 多くの新しいファン、リスナーにリーチする効果的な方法の1つは、各ストリーミングサービスの公式プレイリストに載せてもらうこと。同社サービスには、プレイリストのキュレーターに試聴してもらうためのサブミット(プレイリストピッチング)機能があり、同機能を利用するアーティストの楽曲は全て、各DSP(デジタル音楽配信事業者)に送られる。

「各DSPの担当者はそこで毎週分をチェックすることができます。楽曲のボリュームが多くて、ジャンルに偏りがないので、けっこうプレイリストに載っていますね。とくに海外のDSPはメジャー、インディーズ関係なく選んでいるという印象です」

 そのほか、最近追加した機能でアーティスト・クリエイターに好評だったものに「スプリット機能」がある。一緒に楽曲を制作したアーティストへはもちろん、リリースの際にプロモーションを手伝ってもらったり、映像制作してもらったりした関係者への支払いが簡単に自動分配できる仕組みである。

「アーティストを軸にした「チームづくり」を目的にした機能です。インディペンデントとは言え、活動を軌道に乗せるためにはチーム作りが必要です。実際のところ、そういった動きをしているアーティストは、継続した活動を行えて上手くいっています」

 利用者からのリクエストだけでなく、活動の状況を見ながら、先手を打って新たな機能を随時加えていくスピード感は、同社の強みの1つと言えるだろう。最近では、各国の配信サイトのチャートイン情報が集約できるサービス「チャートイン通知機能」をリリース。ファンとのコミュニケーションに役立て、再生数の伸長につなげてほしい考えだ。

■海外進出への足がかりを掴めるような枠組み作りを模索

 今後の目標は、「海外の日常生活の中に日本の楽曲が溶け込んでいる状況」を作ること。しかし、現状での収益の国内・海外比率は93%:7%。国内・海外ともに収益は膨らんでいるものの、比率は以前からあまり変わっていない。海外に向けて楽曲を配信しているにも関わらず、海外でのヒットが生まれていない状況が続いている。

 もちろん、海外でのヒット事例がないわけではない。例えば、東南アジアでヒット中のcinnamons×evening cinemaは、国内での知名度はまだ低いものの、ベトナムの人気サッカー選手のTikTok投稿に、楽曲「summertime」が使われて人気に火が付いた。外国人リスナーの比率が高いAmPmも同様で、国内での認知は低くても海外ではしっかりと収益を上げて活動できているケースが生まれている。まさに今どきのストリーミングヒットと言えるが、それは多分に偶発的なヒットでもある。そこで同社では、次世代アーティストがデジタル音楽を最大限に活用し、海外進出への足がかりを掴めるような枠組み作りを模索している。

「今後、海外展開を考えるアーティストは増えると思います。そうなった時に、その活動をサポートできる環境を作っておきたい。国内のDSPに行っているように、海外のメディア、情報サイトにも楽曲をプッシュできる仕組みを作りたい。また、海外で再生数を伸ばすには、英語のテキスト情報は必須です。BTSのケースもありますので、日本語で歌われていてもヒットすると思いますが、そこへもっていくまでのコミュニケーションの設計が重要で、今のままではオンライン上で海外のリスナーに届きません。そこも変えていく必要があります」

 上記のような海外へ向けての取り組みとは別軸で、国内においては、「TuneCore Japan」の認知をさらに高め、若年層に早い段階から同社サービスに触れてもらえるような環境づくりを、野田氏は思案している。また、地方との密なリレーションシップを築いて、オンラインサービスに苦手意識を持つ人々をフォローする体制も整えていきたいと意欲を燃やしている。これからさらに発展を遂げていくストリーミングシーンで、インディペンデントアーティストはいっそう存在感を増していくに違いない。彼らをサポートする「TuneCore Japan」の次なる展開も含めて、その動向から目が離せない。

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