日本シリーズ4連覇

共同通信

 滅多に見ることのできない光景だった。

 巨人に4連勝して、パ・リーグ初の日本シリーズ4連覇。歓喜に沸く本拠地グラウンドの片隅で、ソフトバンクの孫正義オーナーと工藤公康監督が互いに最敬礼を繰り返している。

 10秒、20秒。一度は頭を上げたかと思うと、また深々と一礼する。

 工藤監督からすれば、グループの総帥が頭を下げているのだから、自分からその姿勢を崩すわけにはいかない。

 ようやくお辞儀が終わるとオーナーは「最高ですね。ご苦労さま、感謝申し上げます」と監督をねぎらった。

 過去に何度も同様の光景を見てきたが、これほどまでに頭を下げたオーナーを見たことがない。それも日本を代表する経営者が、である。

 日頃はビジネスで世界を駆け回る孫オーナーが、リーグ優勝、クライマックスシリーズ、そして日本シリーズとホークス歓喜の瞬間にすべて立ち会った。

 本業とはまた一味違う喜びが、そんな行動につながったのだろう。まさにオーナー冥利である。

 その孫オーナーの傍らにいる王貞治球団会長も、格別な勝利に酔いしれていた。

 自らの古巣である巨人を撃破しての勝利は、球界の「盟主交代」を印象づけた。

 王さんの行動を見ても、決してオーナーや監督の前に出ることはない。「世界の王」は礼節を知る人でもある。

 組織のトップがこの姿勢だからこそ、このチームは盤石の強さを感じさせるのだろう。

 9連覇した巨人以来の日本シリーズ4連覇である。

 今シリーズの勝因や巨人の敗因などは多く語られている。150キロ台の剛速球を投げ込む、ソフトバンク投手陣の層の厚さ。投打にわたるパワー野球に原巨人は粉砕された。

 直近の10年間の日本シリーズを見ても、セ・リーグが勝ったのはわずかに1度だけ。

 敗れた巨人の原辰徳監督も、以前から「セ・リーグもDH制の採用を」と提唱している。パ・リーグ優位の流れは、しばらく続きそうである。

 見逃してならないのは、ソフトバンクの強さは組織力にあることだ。そして王者の存在が圧倒的だからこそ、パの他の5球団は切磋琢磨して強いリーグが生まれているのだ。

 第1戦の初回。ソフトバンク先発・千賀滉大と巨人の4番・岡本和真が対決した場面だ。

 いきなり154キロの剛速球で内角を突くと、岡本のバットが粉々に飛び散る。捕邪飛であえなく凡退。この打席で本来の打撃を崩された主砲は以降、最後まで沈黙した。

 シリーズ通算13打数1安打。極論すれば勝負の流れは1打席で決まった。

 個人的にはもう一つの象徴的なプレーを取り上げたい。それは第3戦の6回裏、ソフトバンク長谷川勇也の打席だ。

 自軍が2対0でリードして二死満塁。代打に起用された長谷川の一打は一、二塁間を破ったかに見えたが、巨人・吉川尚輝のファインプレーに阻まれてアウト。その瞬間、35歳のベテランはヘッドスライディングの後も立ち上がれずに、グラウンドに右こぶしをたたきつけて悔しがった。

 一球一打にかける執念と、どんなベテランでも結果を残さなければ戦いの輪から取り残される厳しさが見て取れた場面だった。

 千賀、捕手の甲斐拓也、俊足の周東佑京らの育成組がたくましく育ち、柳田悠岐、Y・グラシアルらの中軸がどっしり構え、なおかつ長谷川のようなベテランもいる。

 こうした隙のない戦力を工藤監督がしっかりとまとめる。その上に王会長、孫オーナーがいるのだから盤石の組織力と言える。

 そのオーナーは、指揮官をねぎらいながらこうも言っている。

 「4連覇があるということは、次は5連覇を目指して頑張ってほしい」

 負けることが大嫌いなビジネスマンは、早くも次の大仕事に目を向けていた。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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