「サッカーコラム」小野伸二、41歳でのJ1復帰

共同通信

 Jリーグのキャリアサポートセンターによると、Jリーガーの引退平均年齢は26歳なのだという。おそらく少年時代からプロになることを目標にしてきて、ものすごい努力を積み重ねてきた選手たち。それが社会人としてはまだ若く、学業をやり直そうとするには少し年齢のいった時期に、生活の糧としてきたサッカーを辞めざるを得ない。なかなか厳しい世界だ。

 近年、高校卒業時にJクラブから誘いを受けたにもかかわらず、それを断って大学に進学を経てJリーガーになる選手が増えている。J1川崎の三笘薫などが良い例だ。その理由としてはフィジカル的な問題だけではなく、プロを辞めた後のことを考えていることもあるのだろう。

 そのようななか、J2琉球に所属していた小野伸二がJ1札幌へ移籍することが発表された。2シーズンぶりの復帰である。

 魔術師のようなボールさばきと戦術眼、そして凡人では思いつかないイマジネーション。小野は誰もが認める日本が生んだ最上級の天才だ。たとえ試合に出場しなくても、試合前のウオーミングアップを見ているだけで「楽しい」と思わせるまれな選手だ。ただ、年齢はすでに41歳の大ベテラン。通常ならば戦う舞台のレベルを下げていくものだ。それがJ2の琉球からJ1の札幌にディビジョンを上げた移籍をするのだから、驚いた人は多いだろう。

 「うちのチームはボールを保持していても失うことも多かった。ペナルティーエリア近くではイマジネーション、技術が必要。そういうものをトレーニングのなか、実戦のなかでで示してほしい」

 札幌の強化担当が獲得の理由をこう話していたが、小野ほど他の選手のお手本になる選手はいないだろう。特に若い選手は、同じグラウンドで小野の「魔法」に接することで、今まで思いもつかなかった技術をインプットされる。まねることで、自分の技術やアイデアとなり、新たな魔法使いが生まれてくる可能性がある。

 Jリーグ開幕当初の「バブル期」が弾けたとき、まだ第一線で活躍できるものの年俸の高い30歳前後の選手が契約を切られて引退しなければならないということが一時期あった。ベテランを一人切れば、若手が数人は雇えるという発想だったのだ。ただ、ベテランを切るということは若手に対してのお手本がいなくなるということを意味した。そのようなクラブは継続性を失い、後に低迷するところが多かった。

 1993年の発足した当初、Jリーグは海外から「年金リーグ」とやゆされた。ジーコを筆頭に、リトバルスキーやラモン・ディアス、リネカーなど、世界的ビッグネームが名を連ねたが、それはすでにピークを過ぎた選手たちだったからだ。

 体の動きは全盛期に比べ衰えていたかもしれないが、その名手たちが日本サッカー界にもたらしたものは大きかった。いくら名監督が言葉で説明しても、知識を持たない者にはイメージが湧かない。それを目の前で披露してくれたのが、Jリーグ創成期の外国籍選手たちだった。後に日本は国際的な競争力をつけていくのだが、外国籍選手のプレーをまねることの積み重ねが選手個々の技術を高めることにつながったといえる。

 現在のJリーグには40歳前後の選手が数多くいる。かつては考えられなかったことだ。科学的なトレーニングや栄養学の進化が目覚ましいのだろう。J1には小野以外にも中村俊輔(横浜FC、42歳)、阿部勇樹(浦和、39歳)、J2にも遠藤保仁(磐田、41歳)、稲本潤一(相模原、41歳)が今シーズンもプレーに備えている。ドイツ1部リーグ・ブンデスリーガ最年長で「奇跡」と呼ばれている長谷部誠が37歳だから、Jリーグはかなり特異なリーグなのかもしれない。

 自分が納得するまで現役を続ける。プロの世界では契約があるので自分の一存では決められない。確かに彼らはかつてとは違い、ピッチに立つ時間は短くなっている。それでもチームにとどまれるのは、チームのなかに影響力のあるベテランを置くことの効用を理解するクラブが増えているからではないだろうか。

 2月26日で54歳となる“カズ”こと三浦知良。存在そのものがすでに伝説であるキングがいたからこそ、後輩たちは「引退」の二文字を考えることなくプレーに集中できているのではないだろうか。もしも現役を続けるカズがいなかったら、クラブの強化担当は、40歳前後の選手と年齢を理由に契約にちゅうちょした可能性はある。

 昨シーズン、13シーズンぶりにJ1に昇格した横浜FCは斉藤光毅や安永玲央などの若手が躍進した。その将来のある選手に常に背中を見せ続けたのがカズだった。そして、下平宏監督はこう話していた。

 「カズさんが手を抜かないのに、他の選手が手を抜けるわけがないでしょう」

 民話の「うば捨て山」ではないが、経験を積んだ者には知恵がある。Jリーグにいる前出した大ベテランたちはいずれも国際経験が豊富で、カズを除きワールドカップ(W杯)に出場している。世界を知る選手たちの目に見える景色を共有する。そうすれば若い選手たちの成長の速度は早まるはずだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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