“性にまつわるモヤモヤ”を漫画で提起し続ける理由「自分を認めてくれる人がいないって、すごくつらい」
LGBTQ+やフェミニズムなど「性にまつわるモヤモヤ」を実話に基づくストーリー漫画にしてSNSで発信している『パレットーク』。家事をすることが“情けない”と思われてしまう父の話や、性被害にあったことを打ち明けても「かわいいからだよ」と言われて済まされてしまった話など、なかなか言語化できないけど違和感のあることを題材として扱い、時に様々な議論を生んでいる。センシティブな内容をあえてSNSで取り扱う理由、その意義とは? 編集長の合田文さんに話を聞いた。
【漫画】初対面での質問に驚き「男の子同士ってどうやってするの?」と聞かれ…
■実話に基づいているから「ありえないでしょ」という揚げ足とりにはならない
ーーパレットークは「性にまつわるモヤモヤ」に関するエピソードマンガを、SNSで公開されていますよね。SNSにはどんなコメントが寄せられているのですか?
【合田】読まれる数が増えるにつれて、いろいろなコメントを見かけるようになりました。でも、賛否両論があることはネガティブなだけでは無いと思っていて。今まで問題とすら思われていなくて、ただモヤモヤしていたことが言語化され、発信をしたことで議論が起こるまでになっている。
LGBTQ+に関する課題などは、当事者だけが頑張って社会を変えるというよりも、その課題に社会全体が気づき行動していくことが大事だと思っています。アカウントが開設された2018年当初と比べても、他人事ではなく、自分にも関係あることとして語ってくれる人が増えたなあという実感です。
ーーマンガのエピソードはどのように考えられているのですか?
【合田】編集部メンバーが体験したことや、読者さんがDMで寄せてくれるエピソードなど、マンガのストーリーはすべて「誰かが実際に体験したこと」がベースになっています。性に関するもやもやって、フィクションのお話になってしまうと、リアルを伝えられなかったり、リアルを知る人にとってつらいものになってしまったりすることがある。でも、体験談は実際に誰かが経験したことなのだから「ありえないでしょ」っていう揚げ足とりになりにくいんです。
私たちが伝えたいのは「目を背けてはいけない事実」「取り上げられづらいけど、実際にあるモヤモヤ」なので、エピソード自体をないものにされてしまったり、関係がないことと思われてしまうことが一番よくないなと思っています。エピソードは独自性の強いものというよりは、自然に体験する機会があるような、友だちから聞いた話のような共感性の強いものが多いと思います。
■エピソードをリアルに伝え「意見の違う人が現れても“炎上”とはとらえない」
ーーエピソードによっては、センシティブな内容を取り扱う機会も多いと思います。誰かを傷つけないように、でも問題がきちんと伝わらないといけない。表現の仕方、度合で悩まれることはありますか?
【合田】意見の違う人や、なんでもいいから叩きたいという人がもし現れたとしても、炎上とは捉えません。まず私たちが配慮しなければいけないのは、マイノリティ当事者やこの問題を考えてきた人たちであって、その人たちにがっかりされてしまうのはよくないこと。なので、表現に関しては「当事者に配慮できているかどうか」、そして「マジョリティにも伝わりやすいか」ということに気を配っています。
――これまでに300ほどのエピソードを編集部で作り出してきたと。寄せられた反響など、印象に残っている漫画エピソードは?
【合田】たとえば「生まれたときに割り当てられた性別と、自認する性別が違うかもしれないということもあるかもしれないと思って、生まれた子どもにニュートラルな名前をつけた」というエピソードを公開した時に「じゃあ、配慮せずつけた名前はだめなのか?」「親に自由に名前をつける権利はないのか」などというコメントも寄せられました。マイノリティに配慮したエピソードをリアルに伝えたいと思った時、マジョリティの方たちの中で「自分が責められている」と曲解してしまう人がいるというのは事実です。そんなことは決してなくて、そういう人がいたというエピソードの紹介だったのですが。でも、意見が違う人のコメントがあるのは当たり前。批判的な意見も含めて、議論をする人が増えてきているのではないのでしょうか。
ただ、頂いた意見は蓄積しています。たとえばマジョリティが持つ特権性について指摘した時などは、賛否両論が多く生まれるようですね。
■フィクション色が強く描かれるLGBTQ+のエンタメコンテンツに思うこと
ーーセクシュアリティやジェンダーの多様性に関して、ドラマや映画などのエンタメコンテンツも増えていますよね。そういったものについてはどうお考えですか。
【合田】マジョリティの目に届くきっかけになっていることはいいことだと思いますが、まだまだ指摘される点も多いのかなと思っています。たとえば同性愛やトランスジェンダーをテーマにした作品を撮影する時でも、当事者の演者が配役されない。「イケメン俳優が難しい役どころに挑戦した」という取り上げられ方では、結局必要な問題提起に目を向けられないのではないかと思います。
――確かに“難役”として取り上げられるケースは多いように思います。
【合田】エンタメコンテンツなので脚色があることは当然ですが、それでは結局リアルは伝わらない。日本のLGBTQ+に関するコンテンツって、当事者が居ない(と思われている)現場で作られることもあるからか、結局ファンタジーでしかないものばかりになることも。LGBTQ+の役を演じた俳優インタビューの記事を読んでいて「このキャラクターはゲイではなくて、相手がこの人だから好きになったんだと思う」という回答に違和感を覚えたことがあります。私たちの世界では本当にそう言えるのか、「長い人生を歩んでいたら、性的指向や性自認が変わることだってあるし、誰にでも関係のあること」というような発言をしてくれたら救われる人もいたのかな、なんて思いました 。
たとえば「レズビアン」だからといって皆同じ悩みを抱えるわけではないので、「レズビアンはこうだ」だなんて断定できません。でも、モヤモヤを抱えやすいポイントは社会の構造上、ある。だからこそ、私たちはあらゆる方向からさまざま体験談エピソードをぶつけて、当事者たちの輪郭をとらえてほしいですし、それが議論のきっかけになるのなら本望だと思っています。
■「メディアとして同じ気持ちを抱える人をつなぐ場所でありたい」
ーーエピソードの中には、ハラスメントとして名づけられてすらいない「モヤモヤ」がテーマになっていることもありますよね。
【合田】セクハラとか、アルハラとか、いろんな言葉が出てきていますけど、名前がつけられていないモヤモヤもたくさんあると思うんですよ。そういうエピソードを公開した時は「自分が思っていたことを言語化してくれて嬉しい」というコメントが来る時も多くて。私たちがメディアとしてモヤモヤを言語化することで、同じことを考えている人を見つけられる人がいるとするなら、とても嬉しいです。私たちはそういう人をつなぐ場所でありたい。SNSで自分と同じ気持ちを抱える人、境遇の人が見つけられたら……お互いを認め合うことができますよね。
自分のことを認めてくれる人がいないって、それだけですごくつらいことだと思うから。直接会って話す人じゃなくても、意見交換ができる人、共感しあえる人を見つけられるようなコミュニティを形成していきたいなと思っています。
ーー「性にまつわるモヤモヤ」を発信するメディアとして、目指していきたいことは何ですか?
【合田】「こういうの、いやだよね」と思うものを、言語化することまではできている。これからは読者が「でも、こう変えられたらもっといいよね!変えよう!」と思えるようなメディアにしていきたい。だから、コミュニティ形成はこれから力を入れていきたいところです。生きづらさを抱える人が、自分らしくいられる居場所を作っていきたい。
当事者と胸を張って言えるわけではないという人も巻き込んでいきたいです。今のSNSでは、アカデミックな発言ができないと「わかってないやつ」だと思われて、結局この話題を敬遠しちゃうみたいな部分もあるから、そういう危惧なしで、自分の言葉で議論できる関係の人を見つけることができる場所にしていきたいです。同じ気持ちでいる人を見つけられず、孤独を感じている人たちが、『パレットーク』をハブに仲間を作れるようになること。これが、私たちの次なるミッションだと思っています。
(取材・文:ミクニシオリ)
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