没個性化する新車へのアンチテーゼ? “レトロかわいい”ランクル、ハイエースに見る中古車販売店の勝算

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 低燃費化、プラットフォームの共通化などの影響からか、昔に比べ、車一台一台の“没個性化”が進んでいるように見える現代の新車。そんな潮流のなか、ある中古車販売店が、トヨタランドクルーザーやトヨタハイエースなどのゴツいイメージのある車に、自社開発の専用パーツを取り付け、レトロかわいく“リノベーション”した車を発売。人気を博している。没個性化する新車へのアンチテーゼともいえるこれらの開発の裏には、中古車販売店社長の車に対する熱い想いがあった。

【写真】80年代をほうふつとさせるカラーリングと”角目”が人気…ハイエースベースの『COAST LINES』

■“自己表現のアイテム”としての車を諦めている人が多い現代

 丸みを帯びたトヨタランドクルーザープラドのフロントマスクを、エッジをきかせたシャープな印象に変えた『AMERICAN CLASSIC』。トヨタハイエースの近代的なヘッドライトを旧式の角ばったライトに変え、豊富に揃えたボディカラーとともに“見たことのない懐かしさ”を実現した『COAST LINES』。これら、“自分らしくをどこまでも”をコンセプトに、個性的な車『Renoca(リノカ)』のシリーズ名で製造・販売しているFLEX。昨年12月には、商用ワゴンであるトヨタプロボックスをベースにした『EURO BOX』を発売。1週間で初期販売数を完売し、現在、半年以上待ちのバックオーダーを抱えているという。これら、個性的なデザインの車が人気の理由を同社代表取締役社長・藤崎孝行氏はこう分析する。

「新車で欲しいと思うデザインがなく、旧車は維持やメンテナンスの面でもハードルが高い。そういった事情もあって、車を“ライフスタイルを彩る自己表現のアイテム”として見ることを諦めてしまい、『車はリースでいいか』と思っている人たちがいるのではないか。僕自身、機能より見た目で愛情が持てる車が欲しいのに、新車でそうした車に出会えないという不満を抱いていたので、そういう人たちに届いてほしいと思って始めたのが『Renoca』でした。市場調査などによるデータもない中でのスタートでしたが、販売してみて、僕と同じことを考えている人がいたんだなと確信できました」

 それは2013年、『Renoca』(2017年にブランド化)の原型となる『Wonder』の発売当初のエピソードからもわかる。「ランクル80系を60系みたいな丸目にできたらカッコよくない?」という藤崎氏の発想から生まれた『Wonder』は、社内での「こんなの売れない」という多数の反対の声があがりながら、いざ販売してみると瞬く間に完売。しかも、“カスタムカー”というと、コアな車好きの世界と想像されるが、購入者の多くは、店頭に並んでいるのを見て一目ぼれした人たちだったという。

「女性が反応してくれたことも驚きでした。ランドクルーザーは、男性には人気があるけれど、『そんなゴツい車でスーパーに行きたくない』という声や、価格や維持費用の面からも、奥様方にはあまり人気がなかったんです。でも『Wonder』は、そうしたマイナス面を度外視して、奥様のほうが気に入って購入されるケースが多々ありました」

 まさに「マニアックな車好きの人よりもファッションに敏感な人に届いてほしい」という藤崎氏の思いが届いた証と言えるだろう。

■クラシカルなデザインは“懐古主義”ではなく“温故知新”の結果

 コアな車好き以外の人たちに興味を持ってほしいという想いは、『Renoca』というシリーズ名にも表れている。

「“カスタム”という言葉は、『マニアックな車好き』というイメージがあったのであまり使いたくありませんでした。加工やすい素材を使うのではなく、費用が掛かっても安全性をしっかりと担保したうえで、“古いものを新しくしてより長く乗ってもらいたい”という気持ちを“リノベーション”という言葉に込め、『Renoca』と名付けました」

 女優の伊藤かずえが日産シーマに30年間乗り続けていることが話題になるなど、いいものを長く使うことが見直されている昨今。『Renoca』のクラシカルなデザインにも、「車に愛着を持って長く乗ってほしい」という願いが込められているという。

「そもそも、クラシックをコンセプトにしていると想像する人も多いと思うのですが、決して懐古主義なわけではありません。ただ、昔の車のデザインの方が普遍的なものが多い。『Renoca』を立ち上げたとき、プロダクトデザインの巨匠・坂井直樹さんに『クラシックなところに目をつけているのはいいことだよ。なぜならクラシックは不変だからね』と言われたことが忘れられません。地層を思い浮かべるとわかりやすいのですが、下のほうの堆積された部分は変化しないけれど、表面的な部分は台風や洪水、日照りなどによってどんどん変わっていきますよね。同じように、70年代の車はずっと変わらずカッコいいものとして存在しているけれど、今の新しい車は10年後どうなっているかわからない。だから、変わらず存在している部分を見ながら新しい何かを生み出すのはすごくいいことなのではないかと思うんです」

 “温故知新”。デザインの発想の根底にあるのはその思いだ。

「『昔は良かった』にはなりたくないし、『今はダメだ』という前提も嫌なんです。それでは未来に対する希望や光がないし、諦めによるマイナスのエネルギーが生じてしまいますからね。僕はやはり未来に対して希望を持っていたいし、世の中をもっともっとよくしていきたい。もちろん、そのためには昔のことから学ぶことはたくさんあると考えています」

■SF、ミリタリーなどいろいろなテーマに挑戦したい

 もうひとつ、発想の原点として重視しているのは、“遊びゴコロ”だ。

「ネットに『無理矢理感は否めない』とか『不整合な感じがする』というコメントがあがることがあるんですが(笑)、メーカーのデザイナーが整合性を研ぎ澄まして作った顔を変えているのだからそれは当たり前なんですね。うちがやっているのはあくまで“壮大なシャレ”。メーカーが優秀な頭脳と蓄積した技術の中で作っている車だと思うのですが、最近は少し遊びゴコロがなくなっていると思うので、『こんなんあってもいいんじゃない?』というふうに笑いのわかる人や、『おつだなぁ』と思ってくれる人に届けばいいかなと。もちろん、このままでカッコいいと思ってくださる方も大歓迎です」

 昨今メーカーからも、昔のオフロード車をほうふつとさせる『スズキジムニー』(2018年)や、70年~80年代のアメ車を思わせる『光岡バディ』(2020年)など、レトロさを感じさせる個性的なデザインの車が発表され話題となっている。新車としてこういった車が販売されると『Renoca』の売り上げに影響が出ることも考えられるが、藤崎氏は意に返さない。

「新車でカッコいいデザインの車が販売されることは大歓迎です。自動車業界の活性化にもなりますし。うちは販売店なので、その車を売っていけばいい。まぁ、少し手を加えてオリジナリティーを出すかもしれませんが(笑)」

 さらに、今後は、「めちゃめちゃ未来っぽい車も作りたい」という意欲も。

「今はクラシックなデザインが多いですが、タイミングがあえば、SFっぽいとか、ミリタリーっぽいとか、いろいろなテーマに挑戦したいですね。開発することが目的で会社をやっているわけではなくて、そういう車が簡単に手に入らないから作っているだけなんですけど(笑)。今後も、自分らしく生きるために選択的な人生を歩んでいる、ファッションにもこだわりたいという人たちに届くような、カッコいい車を提供できたらと思っています」

取材・文/河上いつ子

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