近年のJリーグを席巻する「大卒ルーキー」

共同通信

 「明治大の10番、日本のテベスらしいですよ」。フライデーナイトでシーズン開幕戦を戦った川崎と横浜Mの一戦の翌日のことだ。リモートマッチで、他チームの開幕戦のどの試合を見ようか迷っていた時、友人から前出のメッセージが届いた。

 カルロス・テベスといったら、ユナイテッドとシティーの両マンチェスター、ユベントスなどで活躍した元アルゼンチン代表の名手だ。身長は171センチと大きくはないが、フィジカルコンタクトにも強く、抜群の技術と切れ味で得点を積み重ねる野性味あふれるアタッカーとして誰もが知っている。現地で観戦した2010年ワールドカップ(W杯)のメキシコ戦のゴールが強く印象に残っている。

 日本のテベスとして、友人が一押しするのが今季、札幌に加入した小柏剛だ。近年、大学サッカー界で圧倒的な強さを誇っている明大。その栗田大輔監督が絶賛しているのが小柏なのだという。「昨年の三笘とまではいかなくとも、かなりやるはず」というのがもっぱらの評だ。167センチ、67キロ。確かに身長は高くはないが、がっちりとしている。経歴を見たら大宮のアカデミー育ち。高校3年だった大宮ユース時代にプレミアリーグイーストの得点王に輝きながら、トップチームには昇格できなかった。明大に進むと、3年生から10番を与えられ、複数のJクラブが争奪戦を演じた末、札幌に籍を置いた。

 2月27日のJ1第1節。札幌は9年ぶりのホーム開幕戦だった。その先発メンバーに「ルーキー」としてただ一人名を連ねた。昨年も札幌の特別指定選手としてプロとしての試合を5試合こなしているので、まったくの新人とはいえない。それでも札幌の「ルーキー」としては、9年ぶりの開幕先発出場を飾った小柏のプレーは特筆ものだった。

 札幌が敷く3-4-2-1のシステムの中で、1トップのアンデルソンロペスの後方にチャナティップとともに2シャドーとして控える。アタッカーとしてのポジションにいながら、小柏が最初に見せたのは守備の能力だ。いわゆる「取るふり」とは違う「本気取り」のプレスは、横浜FCの守備陣を慌てさせた。開始2分の先制点はまさにそれで、小柏が猛烈なプレスを掛けることで横浜の小川慶治朗のクリアミスを誘った。ペナルティーエリア右で拾った駒井善成が、フリーで右足シュートを流し込んだ。

 先制点からわずか2分の前半4分、今度は攻撃だ。ハーフウエーラインからカウンターでドリブル突破。右サイドでフリーとなった金子拓郎にパスを通し、金子はカットインから左足シュート。DFに当たり、GK六反勇治の逆を突く幸運はあったが、開始早々に流れを完全に札幌に持ってきた。

 少し見ただけで魅了された。まず、技術が高い。単純に走るスピードも速いのだが、DFを背負いながらも簡単に裏に抜け出る反転の速さがすごい。プレーを音で表すなら「キュッ、キュッ」という鋭角的な感じがする。さらに判断の早さが光る。戦術理解度が高いのだろう、味方がボールを持つ体勢を見て、相手のマーカーより一歩早く動き出す。未来を常に予想しているからフリーになれるのだ。

 前半45分のチームの3点目、自身の2アシスト目はまさにそれだった。右サイドの田中駿汰が中央の駒井にボールを下げた時、横浜のDFラインはラインを一気に上げた。残っていれば札幌の攻撃陣はオフサイドなので、全員が自陣側に下がる。しかし、駒井がチャナティップに縦パスを入れ、チャナティップが右足でボールを入れられる体勢になったと同時に小柏は反転した。手を上げてパスを要求。裏に飛び出してフリーとなり、あとはプレゼントのようなパスを送るだけ。アンデルソンロペスはこれを胸で押し込み、試合の勝敗をほぼ決めた。

 大学生という肩書を外したという意味でのJデビュー。2アシストに加え、守備面でも貢献した。その中で唯一の心残りがあるとすれば、ゴールを奪えなかったことだろう。後半21分、駒井の浮き球のパスをジャンプしながらの絶妙のトラップでコントロール、GKとの1対1をつくった。しかし、左足インでボールを切ったカーブシュートは、曲がり切らずにわずかに左にそれた。小柏は「自分にも良いチャンスがあり。最後に決めるだけだったにも関わらず外してしまったのは反省点」と認めていた。意識が高い。

 大きなインパクトを残した「日本のテベス」のJデビュー。データを見たら、すごい数字が残っていた。この試合の小柏のスプリント数は36。これに続く金子と横浜の小川は29だ。2位の2人がフル出場したのに比べ、小柏は終盤とはいえ後半37分に交代している。それを考えれば、試合を通して休まずにスプリントしているということになる。

 近年、Jリーグを席巻する「大卒ルーキー」。この試合で横浜FCのゴールの完璧なアシストをした高木友也もその一人だ。その中で、当然だが人々の目はアグレッシブな選手に注がれる。加えて高い技術やセンスを備えていれば、なおさらだ。三笘に続く、新たな驚き。Jの中心となり得るニューカマー。小柏は、その候補の最も有力な一人であることは間違いない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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