川崎フロンターレ、強さの根源となる局地戦の意識

共同通信

 前半を見る限り、流れはむしろ浦和レッズにあった。開始12分の山中亮輔のクロスを、杉本健勇がボレーで合わせる。左サイドから自分の体の前を通ったボールを、右足で捉えるのはかなり高度な技術だ。その見事なシュートを、川崎フロンターレのGK鄭成龍(チョン・ソンリョン)が、これまた美しいダイブではじき出す。

 3月21日に行われたJ1第6節。浦和と川崎の一戦は、川崎が前半と後半ではまったく違う表情を見せた試合だった。

 開幕から連勝街道を走り続けていた川崎。だが、4日前に行われた第5節のヴィッセル神戸戦でそれが止まった。1-0でリードしていながら、後半に10分もあったアディショナルタイムの最後のプレーで同点に追い付かれた。浦和戦での動きの悪い川崎の前半を見て「前節の結果を引きずっているのかな」という印象だった。

 それでもチャンピオンはやはりチャンピオンだ。悪いなりにも勝負どころは、しっかりと押さえてくる。前半42分の先制点は、まさにそれだった。右サイドバックの山根視来のクロスを小林悠がヘディングで合わせた。斜め後方から来るボールをヘディングで合わせること自体が難しい。しかも体をひねりながら、よりボールにスピードを与えて対角線上に飛ばす。小林の技術は、職人技として表彰されてもおかしくないレベルだ。そして、劣勢でも川崎は点を取る。個人としても、チームとしても、うまいなというのが正直なところだった。

 浦和からすれば、自分たちが優勢だったのに、ゴールを奪われたことは「運がない」という程度だったのではないだろうか。少なくともハーフタイムまでは。そして、後半に入ってすぐに川崎の恐ろしさを知ることになる。

 後半を迎える前に、川崎の鬼木達監督はこう言って選手たちをピッチに送り出した。「決してプレスは悪くないのに、こぼしてしまうシーンが多々あった。そこで取り切ること」。強い川崎を語るとき、往々にして技術の高さや攻撃力に目がいきがちだ。それ以上にすごいのが、ボールを奪う能力だ。元ブラジル代表のストライカーが前線から本気でボールを奪いにいく。体を相手に当てて戦うことをいとわない。そのようなことができるチームは決して多くはない。

 後半4分、川崎のどとうの攻撃が始まった。右サイドの小林のクロスに対し、ゴールに背を向けたレアンドロダミアンが、胸トラップでボールを浮かせて、美しいバイシクルシュートで追加点。さらに6分、シミッチの芸術的なスルーパスを引き出した左サイドバックの旗手怜央が右足アウトでプッシュして3点目だ。8分には左サイドの長谷川竜也のセンタリングをレアンドロダミアンがヘディングで折り返す。そのボールを小林が押し込んで決定的な4点目を挙げた。

 川崎と浦和。細かく見れば、両者の局面での争いに大きな差があった。2点目を挙げたとき、レアンドロダミアンをマークしていたのは浦和の岩波拓也だった。その岩波はボールが飛んでくる前段階で、レアンドロダミアンの左腕で後方にはじき飛ばされている。センターバックとしては、これはいただけない。レアンドロダミアンは、これでオーバーヘッドで足を振るスペースをつくったわけだ。もし岩波が踏み止まって頭を出していたら、デンジャラスプレーでレアンドロダミアンのファウル。それだけに負けてはいけない場面だった。

 旗手の3点目に関しても、球際での厳しさの差が出た。ラストパスを出すシミッチにボールが渡る前にボールはイーブンの状態だった。浦和の関根貴大と川崎の長谷川の競り合いは、結果として長谷川が勝利した。非常に微妙な差なのかもしれないが、途中で諦めた者と、本気で取りにいった者の差が出たといえる。

 浦和が埼玉スタジアムで5失点するのは、2013年のセレッソ大阪戦以来、8年ぶりのことだった。その5点目も、ボールへの執着心の差が出た。後半22分、自陣のペナルティーエリアからこぼれ球を収めてボールを持ち出したのが浦和の大久保智明だった。脇坂泰斗は、大久保の背後から懐に強引に腰を入れボールを奪取。間髪を入れずに反転し、20メートルの位置から豪快な左足のミドルシュートをたたき込んだ。

 球際でのボールを奪い切る「本気度」に両者には大きな差があった。おそらく浦和も強かった時期には、一人一人が局面でのボール奪取の勝負にこだわっていたはずだ。ただ、今シーズンまだ1勝しか挙げていない事実を考えれば、その意識がかなり希薄になっているのかもしれない。

 日本代表のハリルホジッチ元監督は「デュエル」という言葉を使って1対1の重要性を説いていた。現在の強い川崎のサッカーを見ていると、サッカーとは1対1の勝負の積み重ねの上に成り立っているのだなと思える。そして、「デュエル」を重視しないサッカーは結局のところ強くはなれない。

 Jリーグを見回すと、何チームが本気で1対1の勝負を重要視しているだろうか。すべてのチームが局面での勝負にこだわれば、サッカーはもっと真剣味が増し面白くなる。日本代表だけでない。世界に通用する個人やチームを輩出するには、局地戦の意識が旺盛な集団を作ることが必要だ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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