賛否両論あるから「みんなのうた」 放送60年、変わることと変わらないこと

オリコン

 1961年4月3日よりNHKで放送開始されてから今年、満60年を迎える『みんなのうた』。これに先駆け2月1日から 「みんなのうた60」プロジェクトが始動。1年間にわたりさまざまな企画が展開される。中でも、4月1日から20年ちかく変わらなかったオープニングタイトル(10秒)のリニューアルを敢行。「還暦を迎えた番組の新たな人生の始まりとして、視聴者の皆さんに新しい名刺を渡すような感覚です」と語るのは、「みんなのうた」統括の関山幹人氏(NHKエンタープライズ)。「みんなのうた60」プロジェクトへの思い、長きにわたって番組が続いているひけつはどこにあるのか、変わることと変わらないことを聞いた。

【画像】「北風小僧の寒太郎」(アニメーション:月岡貞夫)

■一貫して変わらない、良質なオリジナル楽曲と映像の5分間

 『みんなのうた』は、NHKのテレビ・ラジオで放送されている5分間の音楽番組。これは一貫して変わらない。海外で親しまれている民謡を子どもも大人も一緒に楽しめるうたとして紹介するとともに、番組発信の長く歌い継がれる歌を生み出していこうという志のもと、音楽と映像でつづる「5分のミュージカルのような番組」をイメージして始まったといわれている。いまも隔月で良質なオリジナル楽曲とアニメーションなどによる映像を制作・放送し続け、その数なんと1500曲以上! 5分という短い時間も絶妙だ。『みんなのうた』のような番組は、世界にもほかに類をみないではないか。

■まるで日本の音楽史 60年続いた理由もそこに

 60年前、最初に放送されたのは、チェコ民謡「おお牧場はみどり」(1961年)。初のオリジナル曲は「誰も知らない」(61年)。その後、「手のひらを太陽に」(62年)、「ちいさい秋みつけた」(62年ほか)、「クラリネット(を)こわしちゃった」(63年ほか)、「ねこふんじゃった」(66年)、「グリーングリーン」(67年)、「森の熊さん」(72年)など、初期は数々の内外の名曲もお茶の間に届け、確固たる地位を獲得する。

 高度経済成長期を経て、日本の音楽シーンが大きく花開いた70年代には、「北風小僧の寒太郎」(74年ほか)、「遠い世界に」(75年)、「勇気一つを友にして」(75年)、「山口さんちのツトム君」(76年)、「南の島のハメハメハ大王」(76年)、「赤鬼と青鬼のタンゴ」(78年)、「切手のないおくりもの」(78年)など、今も歌い継がれる名曲たちが誕生した。

 80年代には、テクノポップな曲調の「コンピューターおばあちゃん」(81年、編曲は坂本龍一)、竹内まりやが歌う「アップル・パップル・プリンセス」(81年)が登場。消費税が始まった翌年の1990年には演歌調の「一円玉の旅がらす」、環境基本法が公布・施行された翌年の94年には細川たかしが歌うラテン調の「ヘドラーの山」がヒット。SMAPの「ベスト・フレンド」(1992年)も元々は『みんなのうた』のために作られた。

 2000年代には、2002年に平井堅が子ども時代に愛聴していた「大きな古時計」(62年、73年)をカバーしたり、椎名林檎が「りんごのうた」(03年)を、宇多田ヒカルが「ぼくはくま」(06年)を書き下ろして、それぞれ話題になったりした。「おしりかじり虫」(2007年)のような社会現象を巻き起こすヒット曲も生まれた。

 2010年代には、40mP feat.GUMI「少年と魔法のロボット」(13年)で、初めて人間の声ではないボーカルが登場する新しい取り組みも。J-POPアーティストによる楽曲も増え、BUMP OF CHICKEN「魔法の料理 ~君から君へ~」(10年)、ゆず「友 ~旅立ちの時~」(13年)、吉田山田「日々」(13年)、AKB48「履物と傘の物語」(15年)、LiSA「リングアベル」(2016年)、V6「太陽と月のこどもたち」(17年)、ピコ太郎「Can you see ? I'm SUSHI」(18年)など。「<NHK>2020応援ソング プロジェクト」の楽曲として制作された「パプリカ」は、2018年以降、Foorin、米津玄師、その他さまざまなバージョンが放送されている。

 まさに、“歌は世につれ世は歌につれ”、『みんなのうた』もしなやかに変わってきた。俯瞰してみると、日本の音楽史の移り変わりの一つの側面を見ることができる。

 「図らずも…という感じですね。時代を超えてバトンタッチしてきた番組制作者の一人ひとりが、今、作るならどんな歌がいいのか、その時々の視聴者や時代に向き合って、時には“逆らう”という形で、これなら長く歌い継がれるスタンダードになるんじゃないか、と思える曲を作ってきた。その積み重ねが、60年続いた一つの理由でもあるのかな、と思っています」(関山氏)

■約20年ぶりにオープニングタイトルを一新

 そんな『みんなのうた』が60年の節目を迎え、オープニングタイトルの音楽と映像にリニューアルされる。「2、3年で変わっているものならまだしも、2002年から変わっていなかったものを変えるとしたら、60年のタイミングが最もふさわしいのではないか。ここで変えなかったら、いつ変えるの?という思いもありました。オープニングタイトルはたった10秒なので、理屈ではない。その人の感性で、好きか嫌いかに分かれると思います。変えてしばらくは批判があるのも覚悟の上。それでもリニューアルを決めたのは、賛否両論含めて、今一度、『みんなのうた』に注目してもらうきっかけにしたい、その一点です」(関山氏)。

 番組の新しい「顔」となるオープニングタイトルの音楽は、映画音楽、ドラマ、CMからアーティストの楽曲提供まで、多数の作曲・編曲を手掛け、NHKでは連続テレビ小説『マッサン』や大河ドラマ『西郷どん』を担当した富貴晴美。アニメーションは、ミュージックビデオやCM制作で活躍する映像作家・杉本晃佑が担当した(『みんなのうた』では18年「しんかいぎょのまち」、20年「月下美人」を担当)。

■ “うたの見本市”でありたい

 関山氏が『みんなのうた』の統括担当となったのは2018年1月。その当時から、2021年の番組60年のことを考えてきたという。「長寿番組だから誰もが知ってて、見てくれていると思ったら、大きな間違い。良質な歌を作っていればいい、と思っていたら、長寿番組ゆえに衰退の一途をたどることになるのではないか。いろいろ仕掛けていかなくては」という危機感を抱いてきた。

 番組を離れてさまざまなイベント・高精細映像コンテンツなど事業開発に携わってきたころ、NHKやテレビ業界以外の人と接するたびに、「自分が思っている以上に、テレビを見ていない、NHKを見ていないということを実感。最近はますます、テレビを見ない、テレビを持っていない若い世代が増えている。僕は『みんなのうた』をよくご覧になり、好意的に受け入れてくださっている人は、3割くらいでは、と思っています」

 ソーシャルメディアをチェックしていると、「初めて見ました」「何十年ぶりに見ました」「まだやっていたんですね」といったリアクションを目にすることも少なくないという。また、「親子で楽しめた」という感想が寄せられている歌に、「教育上良くない」という声が上がることも。20~30代の評判はよくても、年配者には不評な歌もある。

 「担当になって最初に驚いたのは、子どもから大人まで、幅広い世代からリアクションがあるということ。一曲、一曲、すべて、長く歌い継がれる歌になってほしいと思って作っていますが、期待どおり『よかった』『良い歌をありがとう』『最高』と賞賛してくださる方がいらっしゃる半面、批判・苦言もいただく。賛否両論あってこその『みんなのうた』だな、と思います」

 『みんなのうた』は隔月で4曲ラインナップが多く、年間20曲あまりのペースで新曲を発表している(2022年3月まで、新曲枠を半減させて、過去のスペシャルセレクションを放送)。楽しげな曲も、静かな曲も、POPな曲も、時に怖い曲もあり、まるで短編映画のような叙情あふれれる曲もある。ラインナップに「一貫性がない」と言われるのも、「褒め言葉」と、関山氏。

 「私見ですが、『みんなのうた』は、“うたの見本市”でありたいと思っているんです。視聴者の好みも多種多様。だから多種多様な音楽と映像の“うた”を作っていく。1年間に20曲以上作っていますが、その中から1曲でも気に入ってもらえて、皆さんの“今年のうた”になったらいいですし、もし1曲でも“私の人生のうた”と思える歌に出会っていただけたら最高だ、と思っています。そのためにも、伝統は尊重しつつ、多くの人にとって気になる、見たくなる、いろんなチャレンジをしていかないといけないと思っています」。

 歌と同等にこだわっているのが映像。歌と映像が『みんなのうた』の両輪であることは、変わらない。

 「『みんなのうた』の映像は、歌っているアーティストのプロモーションビデオとは違います。映像制作の方には、独自の感性、創造力を存分に発揮して、楽曲の世界がより広がるような映像作品として仕上げてほしいと言い続けています。歌の解釈、“伝えたい思い”を映像的にどうクリエイションしていくか。意識しているのは、お子さんが見ても、年配の方が見ても、誰が見ても『へぇ~』と感心できるかどうか。『みんなのうた』を見るのが日課という方もいらっしゃるとも思いますが、たいていは気づいたら始まっていて、気づいたら終わっていることが多いのではないでしょうか。さらっと聞き流すこともできるし、テレビはついていても音声はオフにしている場合もあると思うので、映像を見て、後でちゃんと見たいと思えるような、気を引く、目を引く、インパクトはほしいですよね。視聴につなげるためにも、歌も映像もどちらも魅力的でなければならず、どちらかに依存することもなく、両方の利点をうまく活用することを心がけています」。

 60年の歴史の中で、最も大きな変化は、スマートフォンなどで、誰でも手軽に歌や映像を作って、ネットで配信できる時代になったこと。

 「誰もが気軽に作れる分、『みんなのうた』としてのクオリティーも問われてくる。そのプレッシャーは年々強まってきていますね。『みんなのうた』って何なのか、究極の定義と言いますか、そこに突き当たっている気がします。やっぱり『みんなのうた』だよね、と思ってもらえるものが作れるのか。そう思ってもらえたら光栄ですし、そう思ってもらえるものを作り続ける責任も感じています」。

■小田和正による「みんなのうた60」記念ソング

 最近で、最も強いプレッシャーの中、楽曲を制作したのは、シンガーソングライターの小田和正だったのではないだろうか。「みんなのうた60」記念ソングとして、「こんど、君と」を書き下ろした(アニメーション:半崎信朗)。4月1日、テレビはEテレ(前8:55)、ラジオは第2(後3:10)で初披露される(以降、4~5月の『みんなのうた』で随時放送)。

 「どうしても小田さんに引き受けていただきたくて、企画書に『100年後も歌い継がれるような歌を』、『子どもから大人まで、誰もが歌える新しい時代の童謡のような歌を』と、猛烈なラブコールを送ってしまい、相当プレッシャーだったみたいで…。小田さんも『「みんなのうた」60年に向けた思いと、コロナに対する気持ちという、2つの色合いが違うことをどう両立させるか、どう言葉に置き換えて一つのストーリーを紡いでいくか悩みました』とコメントされていますが、いろいろ苦心の末に生まれた歌は、さすが!としか言いようがありません。ご期待ください!」

 「みんなのうた」ホームページでは、現在、「うたの思い出」を募集中。「このうたを聴くと、こんなことを思い出す」「私にとって『みんなのうた』とは?」 思い出すと笑ってしまう、聴くたびに涙してしまう…そんな思い出やエピソードを募集している。

 「誰もが知っている曲もあれば、埋もれてしまっている知る人ぞ知る素敵な曲がたくさんあります。いろいろな思い出とともに『みんなのうた』を再発見、再認識していただくきっかけになればと思っていますので、どしどしお寄せいただきたいですね。60年は、リセット&リスタートするのにふさわしいタイミング。新しい切り口を見つけて、視聴者の皆さんとの新たな接点を増やして、この先もずっと楽しんでいただけるような、歌と映像の総合エンターテインメントをお届けしていきたいと思っています」

 コロナ禍が日常を非日常に変え、当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃなくなった、そんな今だからこそ、60年、テレビやラジオから毎日流れる『みんなのうた』の存在は尊い。子どもの頃に聞いて忘れられない曲や、意外な人が歌っていることを伝えたい曲、人生の一部になっている曲などがある人は、その思いやエピソードを投稿してみて。そして、これからもどんな曲との出会いがあるか楽しみな『みんなのうた』。60年をともに祝おう。

■『みんなのうた』
https://www.nhk.or.jp/minna/

■関連番組
『みんなのうた60生放送~バースデースペシャル!~』
Eテレ:4月3日 後7:00~7:55

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