浦和の術中にはまった貧攻ガンバ大阪

共同通信

 目的をよく理解しないまま手段にこだわるあまり、手段を目的と勘違いしてしまう。サッカーの世界では、よくある話だ。

 ヨハン・クライフの哲学が、ペップ・グアルディオラに受け継がれたバルセロナの出現。2010年前後に、圧倒的強さと美しさを誇ったカタルーニャ発信のサッカーは、世界中に波及した。パスをつなぎボールを保持し続けることで、相手を圧倒する。いわゆるポゼッション・サッカーが、すべてに勝る「善」だと考える人が多くなった。近頃の業界用語で、いわゆるボールを「握る」サッカー。ボールを握ったらハンドの反則なので、個人的にこの表現には違和感を持つのだが、保持することが目的となっているチームが結構ある。サッカーの目的はあくまでもゴールを奪うことで、ポゼッションではない。

 5月16日に行われたJ1第14節のガンバ大阪と浦和レッズの試合は、その目的を明確にしたチームと、そうではなかったチームの明暗が分かれた試合だった。

 試合の2日前の14日に、ガンバでは大ナタが振るわれた。生え抜きのクラブレジェンドである宮本恒靖監督を事実上の解任。新型コロナウイルスの集団感染でチームの活動が一時停止したという不運もあった。それでも昨年2位のチームが10試合で1勝の18位。得点もわずか3では、4チームがJ2に降格する今季のレギュレーションを考えれば、早めの手当てが不可避だったのだろう。

 監督交代という劇薬的メンタル療法。ガンバに奮起を促されるなか、開始7分にゴール正面左から鋭いシュートを放ったのは、エースの宇佐美貴史だった。それでも、ちょっとコースが甘い。西川周作を控えに追いやり、リーグ2試合連続でゴールマウスを任された18歳のGK鈴木彩艶がこれを鮮やかに弾き出す。そして残念ながら、前半のガンバの可能性を感じさせる攻撃はこれだけだった。

 浦和が組織的な守備網をペナルティーエリアの外側に築くなか、確かにガンバはボールを持っている時間が長い。ただ、それは「持たされる」状態で、浦和のコントロール下にあるといっていい。事実、見ているとゴール近くではガンバの選手が前を向いてボールを受けるシーンはほとんどない。いくらボールを持たれても、横パスやバックパスでは守る側から見れば、まったく怖くはない。

 自陣での守備を安定させて、チャンスを見て前に出る。この試合での浦和の攻撃は、とても効率的だった。前半16分、左サイドの武藤雄樹のクロスはゴール前で合わなかった。それでも右サイドに流れたボールを田中達也が再びゴール前に。最後はゴール前に構えたキャスパー・ユンカーがヘディングで先制点をたたき込んだ。

 昨季のノルウェー・リーグで27ゴールを挙げ、得点王に輝いたデンマーク出身のユンカー。そのプレーを見ていると、点を取る人だなというのがよく分かる。田中がクロスを上げようとした瞬間、スペースを作るためのバックステップの駆け引き。その確保した空間をキープするために、マーカーの三浦弦太を制するための左手の使い方がとても巧みだった。ファウルを取られないようなレベルで、DFを手で押し戻す。来日後すぐにルヴァン杯も含め公式戦3戦連発という活躍を見ると、浦和はよい助っ人を手に入れたといえる。

 先制点からわずか4分。20分の追加点も見事だった。右サイドのユンカーが大きなサイドチェンジを放つ。左サイドでフリーになった明本考浩が、狙い澄ましてグラウンダーの弾丸クロス。ゴール前に駆け上がった田中が、これを右足で合わせガンバを突き放す2点目を挙げた。田中は前半40分にも、自陣からのドリブル突破で右サイドを激走。DF昌子源のマークを引きはがし、ユンカーの2ゴールもアシストした。第2節以来、今季2度目の先発で1得点2アシスト。全3得点に絡む派手な活躍でのアピールは、間違いなく次につながるはずだ。

 前半で浦和の3-0。試合は45分で決まったといっていい。この日の主役となった田中はこう語っている。「僕の特長はゴールや得点に絡むところで、誰よりも速く走ることや運動量は武器だと思っています」。

 後半に3点を追って前に出るガンバに背後には、大きなスペースができた。浦和とすればしっかり守り、チャンスがあればカウンターを仕掛けるゲームマネジメントで十分だった。

 57パーセント。終ってみれば、ボール保持率で勝ったガンバがゴールを奪えずに、逆に3点を失った。その意味で、目的がはっきりした浦和の術中にはまった試合だった。

 試合を見ていてもガンバの選手は、前を向けない、ペナルティーエリアに入り込めないという状況が目立っていた。シュートにしてもペナルティーエリアの外側から。それではGKの見せ場はつくれても、得点は生まれにくい。11試合を終えて3得点。流れの中で奪ったのは1点だけだ。さすがにこれでは上位に浮上はできない。ガンバは、思っていた以上に重症だ。ゴールを奪うという本来の目的を、思い出さなければかなり厳しい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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