剣豪の立ち合いのような緊張感

共同通信

 シーズンをまだ3分の2ほど残しているので、一喜一憂する必要はないのかもしれない。それでも勝った方が首位に立つ上位チーム同士の直接対決は、ただの一試合とは違う感覚がある。勝っても得られる勝ち点は、普段と変わらぬ3ポイントだ。それに付加価値で両チームのプライドが加わるので、数字以上の重みが出てくるのかもしれない。

 第14節を終えた時点の成績は、首位のアルビレックス新潟が勝ち点33。対する3位の京都サンガは1ポイント差の32。両者が相まみえたJ2序盤戦の天王山。5月23日に行われた第15節の新潟対京都は、2位につけていたFC琉球が前日に敗れたため、より注目度の高い試合となった。

 J1の下位チームより、はるかに集団としての統制の取れているチーム同士の戦いは、予想を上回る密度の濃い試合になった。開始10秒あまり。いきなりビッグチャンスが生まれた。新潟はキックオフのボールが左サイドバックまで戻される。その自陣の深い位置から堀米悠斗が左前方の深いスペースにロングパス。左アウトサイドの本間至恩がダイレクトで挙げたボールに、鈴木孝司がヘディングで合わせた。京都としては虚を突かれた形だったが、運にも助けられシュートはわずかに左にそれた。GK若原智哉も反応できずに見送り、あわやノーホイッスルゴールの可能性があった。

 新潟のアルベルト監督と京都のチョウ・キジェ監督という2人の戦術家。その薫陶を受けた選手たちは、ピッチ上に忠実に指揮官の意図を表現した。14試合で32得点と1試合2点強の得点力を持つ新潟に対し、京都はリーグ最少を競う10失点の堅守を誇る。その攻撃力と守備力が、うまくかみ合って緊張感の高い展開が続いた。ボールをつなぎ、攻撃的な新潟にしても無謀なチャレンジをするわけではない。対する京都は見事な3ラインを形成し、新潟の攻撃を受け止める。基本になるのは両チームの選手ともに、献身的に走り、体を張ることだ。

 J1の試合では、あまり感じられない新鮮さがあったのは、この両チームの守備時の戦う姿勢だ。1対1の局面では、いわゆる相手の攻撃を遅れさせるディレーのプレーではなく、完全に相手のボールを奪い切りにいく。いわゆるハリルホジッチ元日本代表監督が強調していた「デュエル」を仕掛けにいくのだ。

 欧州でプレーする日本人選手が、以前こう話していた。

 「外国人選手は1対1の守備では、個人の力で相手のボールをかっさらいにいく。組織なんて、あんまり考えていない」

 ピッチの至る所で体を張ってボールを奪い合う場面が増えれば、見ている側としては飽きることはない。そういう内容ならば、ゴールの数が少なくても満足できる試合というのはある。まさにそれだった。

 唯一のゴールは、どちらかといえば守勢の京都に生まれた。京都とすれば計画通りの展開だったのかもしれない。後半13分、アンカーのポジションに入ったプロ2年目の19歳、川崎颯太が大きな仕事を成し遂げる。

 イーブンボールを、体を張って奪い切ると、こぼれ球がピーター・ウタカへ。前線でポストに入った福岡慎平に縦パスが通ると、そのボールが川崎の前に戻された。ゴールまで約25メートル。右足ダイレクトで合わせた川崎のキックは、おそらく細心の注意が払われた一振りだった。

 ペナルティーエリア外からのミドルシュート。上体が立ったままの状態でフルパワーのインステップキックで振り切っていたら、おそらくボールはゴール枠の上に外れただろう。本人は「ゴールはあまり見えていなかったんですけど、シュートしかないという気持ちで振ったらいい所に入ってくれました」と語っていた。そのなかで、一番素晴らしかったのがボールを浮かせないことだった。そのために、川崎は体を左に倒し、右足を振っている。しかも、ボールをインパクトすると、足を振り切らずに意識的に止めている。だから地をはうようなグラウンダーのボールの軌道が可能になったといえる。

 プロ1年目の昨年、川崎のデビューの場は、この日の競技場、敵地ビッグスワンだった。そして、この日のゴールがプロ初得点。その意味で新潟は、京都の若きタレントにとっては忘れられない地になっただろう。

 1点を失ったことにより、新潟はより攻撃的にきた。京都は終盤には守備に追い込まれる場面が増えた。ドリブラー本間の仕掛けをはじめ、多彩な攻撃を見せる新潟。京都は、中盤が最終ラインに吸収される場面も増えた。守備網が崩されている証拠だった。

 それでも京都はしぶとかった。後半37分に、新潟は高木善朗のダブルタッチのパスから谷口海斗がGKを抜き去るチャンスをつくる。そんなピンチでも福岡がゴールカバーに入り、シュートを許さなかった。

 終わってみれば17本のシュートを許しながらも、京都が1-0の完封勝利だ。今季9度目の無失点試合で新潟から首位の座を奪い取った。長丁場のリーグを考えれば、まだ序盤かもしれない。それでもJ2でも魅力的な試合があることを知らしめるには十分な、戦術的にレベルの高い、内容の濃い試合。剣豪同士が立ち合っているような緊張感だった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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