ホンダがF1で歩んできた歴史を改めて実感

共同通信

 「最後のシーズン」。アスリートにとって、この言葉が意味するものは言うまでもなく大きい。人生における節目だからだ。

 多くのアスリートは力が通用しなくなることで、現役を去らざるを得なくなる。一方、現役を続ける力は残っているものの引退を選択するアスリートも少ないもの確実にいる。プロ野球でいえば、王貞治(巨人)や村田兆治(ロッテ)はその筆頭だろう。

 王の現役最後は1980年。打率こそプロ野球にデビューした59年を除くと最低となる2割3分6厘に終わったものの、本塁打は30本を記録していた。自身が持つ本塁打記録868本をまだまだ伸ばせるなかでの引退だった。その理由について、王は「王貞治としてのバッティングができなくなったから」と語った。ここに「世界の王」と言われた王の偉大さが現れている。

 故障した肘の手術からのリハビリを経て復帰した村田は毎週日曜日に登板したことから「サンデー兆治」と呼ばれた。落差の大きいフォークボールを武器に通算215勝を挙げた名投手だ。現役最後の90年は26登板して10勝8敗4完投2完封と、こちらも余力を十分に残したままの引退であった。

 モータースポーツの世界では今季、ホンダがこれまでにも増して注目を集めている。「最後のシーズン」だからだ。ご存じのように、ホンダは昨年10月に「2021年シーズンをもってF1参戦を終了する」と発表している。

 個人であるアスリートと違い、ホンダは会社組織。それ故、再びF1に参戦することも可能ではある。実際、ホンダはこれまでも参戦休止と復帰を繰り返してきた。モータースポーツにおいて、これは珍しいことではない。F1創設時から参戦し続けているのはフェラーリだけなのだ。

 だが、ホンダは再度の参戦を否定。「完全撤退」であることを強調している。ホンダがF1に初挑戦したのは1964年。以来、4期にわたり、参戦してきた。1期(64~68年)、2期(83~92年)、3期(2000~08年)、そして今期(15~21年)だ。

 ホンダの発表が本当ならば、計31年に及ぶF1参戦の歴史に幕を下ろすことになる。

 特別なシーズンを戦っているホンダ。今季2勝目となったのは、「F1関係者にとって特別なレース」であるモナコGPだった。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が5月23日に挙げた勝利は、ホンダエンジンにとって通算80勝目となる。

 ちなみに、モナコGPでの勝利はじつに29年ぶり。1992年にマクラーレンMP/7Aに乗るアイルトン・セナが、当時の最強マシンであるウィリアムズFW14Bで開幕から5連勝していたナイジェル・マンセルをストップさせた勝利であった。

 レース終盤に2台が見せた激しくもフェアなバトルは、70年を超えるF1の歴史でも屈指の名勝負の一つとして有名だ。繰り返し紹介されているので、若い世代の読者でも目にしたことがあるのではないだろうか。

 今回の勝利によって、レッドブルのマックス・フェルスタッペンはドライバーズランキングトップに立ち、レッドブル・ホンダも製造者部門で1位につけた。ホンダがエンジンを提供するチームとドライバーがランキング1位になったのは、アイルトン・セナとマクラーレン・ホンダの組み合わせで最後に王者となった1991年最終戦のオーストラリアGP以来、30年ぶりの出来事だ。

 さらに言えば、92年にホンダから最強の座を奪ったウィリアムズFW14Bは、天才エイドリアン・ニューウェイがマシンデザインを手掛けた。今回、現代の最強マシンであるメルセデスW12から勝利とランキング1位をもぎ取ったのは、くしくもニューウェイのチームが手掛けたレッドブルRB16Bだった。

 長い時を経て、ホンダとニューウェイが「昨日の敵は今日の友」とばかりに共闘しているのも何か運命じみたものを感じさせる。

 果たしてホンダ最後の年は30年ぶりの王者として有終の美を飾ることが出来るのか、まだまだシーズンは長いが、そんな事も思い描きながら「勝てるマシン」を手にしたホンダのラストイヤーを応援したい。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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