秀逸な左サイドのコンビネーション

共同通信

 気がめいる梅雨を忘れさせてくれるコンテンツ。コロナ禍で1年延期になっていた欧州選手権、EURO2020が開幕した。欧州各国の11都市で繰り広げられる戦いは、入場制限の程度に違いこそあれ、観客を入れて行われている。チャントや声援も普通に飛び交っている。久しぶりに本来の姿のフットボールスタジアムが戻ってきたという感じだ。

 欧州はワクチン接種が早かったので、観客を入れた大規模大会が可能だったのだろうか。日本ももっと早かったら、と考えてみても、すべては結果論になってしまう。

 現時点では開催に突き進みそうな東京五輪。サッカーの登録メンバーが6月後半に発表される。なでしこジャパンは18日、男子は22日。男女ともに登録メンバーは18人。23人のW杯より狭き門だ。なでしこの場合は、A代表が五輪に出るのでチームの形は大きくは変わらない。一方、男子は3人のオーバーエージ枠を除き24歳以下の制限がつく。森保一監督もかなり頭を悩ませるだろう。

 五輪のメンバー選考はシビアだ。そう強く感じたのは2004年アテネ五輪の時だった。オーバーエージには小野伸二と曽ケ端準の2人だけ。そして、チームの中心と思われていたメンバーが落選した。鈴木啓太だ。アジア予選ではキャプテンを務めて自らの手で出場権を獲得したにもかかわらず、本大会には出場できなかった。その悔しさたるや、われわれには想像もつかない。今回も、似たような思いをする選手が生まれるのだろう。勝負の世界とはいえ残酷だなと思う。

 6月12日にU―24日本代表はジャマイカと対戦して4―0の完勝。6月5日に戦ったU―24ガーナ代表に比べ、ジャマイカは9月に北中米カリブ海のW杯最終予選を控えたA代表ということもあり、テストをするには適当な相手だった。本当ならもう少しレベルの高いチームが良いのだが、欧州勢はEUROがあり、南米勢はコパ・アメリカの時期。対戦相手を探すのも難しいのだろう。

 冨安健洋が負傷のため離脱したが、この試合の先発メンバーは登録入りの可能性が高いのだろうと思われる布陣だった。正直、このメンバーで組まれたチームは強い。6月3日に「兄弟対決」した日本のA代表と再戦させたら、この前のようなぶざまな負け方はしないのではないかと思えた。

 加えられた3人のオーバーエージ、キャプテンの吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航の存在感が傑出している。これに冨安が戻れば、そのままA代表の守備ラインだ。そして、12日は左サイドバックに旗手怜央が起用されたが、左のボランチを務めた田中碧、左アウトサイドの三笘薫で構成された「川崎トライアングル」は、流れるような連係を見せた。練習期間が限られる代表チームでは、クラブチームのコンビネーションを持ち込むのは昔からの常とう手段。この3人の組み合わせは使わない手はないだろう。

 東京五輪を目指すこのチームが立ち上げられたとき、旗手は相手にとって最も危険なストライカーだった。それが、いまやサイドバックを含め、左の前から後ろまでを高次元でこなすマルチプレーヤーに成長した。前半19分に久保建英のシュートがポストをたたいたが、そこに至るスルーパスは素晴らしかった。最終ラインから攻撃を組み立てられる存在があれば、このチームは守備陣が傑出しているだけに、大きなアクセントとなる。スペインのジョルディ・アルバを目指せばいい。守備を重視するならば中山雄太が控えている。

 遠藤とダブルボランチを組んだばかりとは思えない成熟度を見せたのが田中。ゲームを読む目に優れ、攻める時と守る時の役割分担が高い次元でできている。五輪を飛び越えて来年のW杯本番は、この2人のコンビでボランチを務めていても不思議はない。

 そして、五輪代表ではあまり存在感を示していなかった三笘。複数のポジションを求められる五輪にあって、この選手だけはスペシャリストとして五輪でプレーしてほしい。久保や堂安律とも違う、完全に相手を置き去りにするドリブル。後半12分にドリブルから上田綺世のゴールを導き出したスルーパスは、守る側からすればタイミングを読むことが難しい、彼だけのスペシャルな感性だ。「あと1点」の勝負どころで頼りになるのは、組織ではなく個人の力だ。メダルを狙うことを考えれば、間違いなく三笘の能力は必要だ。

 本心を言えば、どの選手も五輪の本番で見てみたい。この年代は本当に才能のある選手がそろっている。それだけにベストメンバーは、いろいろな組み合わせが考えられるだろう。

 ただ、今回はやり方によっては高い確率でメダルが狙える。皮肉なことにコロナ禍が日本の大きなアドバンテージになっている。「バブル」の宿舎に閉じ込められた他のチームは、ストレスをため、短期間での滞在で高温多湿への順応もままならないだろう。それ以前にEUROやコパ・アメリカがあるので、ベストメンバーを組んでくるかどうかも分からない。

 そのような条件の中で「日本だけが有利だったから」と言わせない強い勝ち方をする。あと1カ月ほどに迫った五輪本番に向け、できる限りの準備をしてチームの完成度を高めれば、それは決して不可能ではない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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