屈辱バネに移籍先で開花

共同通信

 人間、一度死んだ思いをしたら一回り大きくなるという。では、同じ思いを2度したらどうなるのか?

 メジャーリーグ、ピッツバーグ・パイレーツの筒香嘉智の活躍が注目されている。

 日本時間の8月27日に行われたカージナルス戦の7回に代打で登場すると、右中間に見事な2ラン本塁打を放った。

 代打では4打数4安打の打率10割。シーズン代打3ホーマーは日本人選手初という記録まで作った。

 さらに「6番・右翼」で出場した日本時間30日の同カードでは、1―3の九回にメジャー初となるサヨナラ3ランを放って、チームメートから手荒い祝福を受けた。

 球団の公式ツイッターには「ヨシ(筒香)と永久に契約を」と願うファンの声が掲載されている。

 かつての「鉄鋼の街」から「ハイテクの街」へと生まれ変わったピッツバーグに、筒香フィーバーが吹き荒れている。

 つい数週間前までは地獄をさまよっていた。

 メジャー2年目をレイズで迎えたが、打率は1割台と低迷、5月には戦力外を通告されてドジャースに移籍した。

 しかし、ここでも首脳陣の信頼は得られず、右ふくらはぎの故障もあってドジャース傘下の3Aオクラホマシティーでメジャーリーグ復帰の道を探ることになる。

 だが、優勝を争う強豪の生存競争は厳しい。大物故障者の復帰が優先され、新たに投手獲得に動くチーム事情もあって再び自由契約を宣告された。

 野球の日本代表「侍ジャパン」の4番を務めたこともある主砲にとって、屈辱の日々が続いていた。

 この時点で日本球界復帰の道もあった。事実、日本の複数球団が獲得に向けて調査に動き出している。だが、筒香に迷いはなかった。

 「米国にプレーしに来ているので、つらいという感覚は全くなかった。結果を残せなかったのは僕自身ですから」

 すぐさま、代理人を通じて移籍の道を探った結果、メジャーで出場機会の多そうなパイレーツ入団が決まる。

 ナ・リーグ中地区で下位に低迷する同球団にとっても、強打者の資質を備えた筒香の獲得はメリットがあったのだ。

 昨年、念願のメジャーに挑戦したものの、打率低迷に泣かされてきた。

 不振の要因は大きく分けて二つある。まずはメジャーの速球に苦しんだことだ。

 2015年のオフに志願してドミニカ共和国のウインターリーグに参加したが、手元で動く変化球に手こずった。

 ミートポイントを手元近くに置くことで対処しようとしたが、逆に日本より球威に勝るメジャーでは速球に差し込まれる結果となった。

 二つ目は練習量の問題だ。元々、長い時間をかけてバットを振り込み、調子を上げていくタイプだが、昨年は米国でもコロナ禍で十分な練習量を確保できなかった。

 控え選手になれば、試合前の打撃練習も短い。こうした環境の中で成績が残せないから心理的な焦りにもつながったのだろう。

 覚醒の予感はオクラホマシティーの頃からあった。

 3Aでは打撃コーチと連絡を取り続け、課題である95マイル(約153キロ)以上の速球を攻略する特別プログラムで研鑽を積んだという。

 その結果、3Aでは43試合で10本塁打をマーク、自慢の飛距離とスイングスピードも戻ってきた。

 確かな感触を得た直後のパイレーツ移籍だから、絶好調も一過性のものではないはずだ。

 ようやく、メジャーの出発点に立った。

 「彼はメジャーではプレー機会が少なかったが、日本では成功を収めてきた。何よりとても落ち着いているし、試合の状況を理解している」と、パイレーツのデレク・シェルトン監督の評価は高い。

 調子を持続できれば、レギュラー定着から来季のメジャー契約も可能である。それどころか、古巣のドジャースが来季契約に興味を持っているとの情報まである。

 「ベーブルースの再来」として全米中のファンを虜にする大谷翔平のようなサクセスストーリーもあれば、ある日突然ロッカールームに居場所がなくなるのもメジャーという世界だ。生存競争はとてつもなく厳しい。

 日本人投手の評価は高いが、野手では異例の「二刀流」でファンを魅了する大谷以外、近年目立った活躍する選手がいない。

 そんな寂しい状況を打破するためにも、筒香には一層の奮起を期待したい。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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