五輪で許されても自動車レースは…

共同通信

 9月21日、8年ぶりに満月となった中秋の名月が全国各地で見られた。季節はこれから本格的な秋を迎え、シーズンの大詰めに入るプロ野球やサッカーのJリーグを始め、各種スポーツに注目が集まる時期がやってきた。しかし、国内のモータースポーツに目を向けると、コロナ感染再拡大の影響がいまだに大きく影を落としている。

 自動車ではF1シリーズの日本グランプリ(GP)と世界ラリー選手権(WRC)のラリー・ジャパンが、オートバイでも世界選手権シリーズで最高峰に位置するモトGPの日本GPや鈴鹿8時間耐久ロードレースなど、国内で予定されていた代表的なレースが相次いで開催中止となった。スーパーGTやスーパーフォーミュラなど国内のシリーズこそ行われているが、残念なことだ。

 もちろん、影響はモータースポーツに限ったものではない。音楽イベントなどでも開催中止が相次いでいる。中止理由はさまざまあるものの、そのなかの大きな理由の一つが「外国人の入国制限が厳しすぎる」というものだ。

 その一方で、矛盾することも起きている。反対意見を押し切る形で開かれた東京五輪とパラリンピックにおける入国制限だ。アスリートと関係者に対しては、入国後義務づけられている14日間の隔離といった制限が大幅に緩和された。五輪が特別な大会であることは十分に分かってはいる。だが、釈然としない気持ちが残る。

 正直、日本では海外のような個人の移動を緊急時に制限する法律は今のところない。加えて、外国人の入国に対して批判的な意見も根強い。結果、政府が外国人の入国緩和に慎重になってしまうのは理解できる。しかし、世界選手権クラスのプロスポーツは、関係者のワクチン接種やPCR検査、グループでの移動を義務づけるなど感染予防策を徹底することで、開催を実現してきた実績があるのも事実だ。

 そうした中、9月18日と19日に鈴鹿サーキットで実施された「スーパー耐久シリーズ」第5戦の記者会見において、トヨタ自動車の豊田章男社長が一石を投じる発言をした。

 水素エンジンを搭載したカローラのドライバーとして参戦した豊田社長は、記者からの「今年、世界三大レースでは日本車が優勝したが、日本では世界選手権ができない状況をどう感じているか」という質問に次のように答えたのだ。

 「日本自動車工業会会長としてお答えします。五輪で許されても、四輪、二輪では許されない。(そこに)不公平さを感じる。五輪も支援させていただいていますし、アスリート支援をしております。ただ、モータースポーツ(のドライバーなど)も五輪、パラリンピック(に参加した選手ら)も同じアスリートだと思います。(にもかかわらず)どうして入国に関する許可(や制限)が違うのか。どうして開催の判断が違うのか。モータースポーツに関しては、外国人選手がなかなか入国できない(状況が)ありました」

 そして、「『五輪で許されても、四輪、二輪はなぜですか?』というのを(記事の)見出しにしてください」と強調した。

 トヨタは今回の東京五輪、パラリンピックに出場した233選手をサポートしていた。それだけに、豊田社長の発言は日本の新型コロナウイルス対策が抱える問題の本質を突くものといえる。

 個人の移動を制限することが難しいから、人が集まる場所やイベントを制限する―。論理としては理解できるが、制限の基準に一貫性がないのは困る。

 米国政府は11月初めから米国に空路で入国する外国人に新型コロナウイルスのワクチン接種完了を義務付ける。その代わり、入国後の自主隔離は不要となる。また、カナダ政府はワクチン接種済みの米国人旅行者の受け入れを8月9日から再開している。日本政府も国内では「ワクチンパスポート」(ワクチン接種証明書)を活用することで社会経済活動の正常化を進める考えとしている。だが、外国人の入国制限を大幅に緩和するまでには至っていない。

 プロスポーツ選手は所属や受け入れ先が明確だ。人数もビジネス渡航者や観光渡航者とは比較にならないほど少ない。追跡アプリなどの保持を義務付けることで、自宅などでの隔離を免除することは可能ではないか。このことは、滞在日程や滞在場所、公共交通機関以外での移動を約束できる海外のミュージシャンについてもいえる。この試みを通じて、いずれは実施することになる大幅緩和に向けた先行データを蓄積することも期待できる。やってみない手は無いのではないか。

 イベントなどの再開に向けて政府も多角的な視点で取り組んでいると示さなければ、中止を余儀なくされたイベントの関係者が抱いている無念さは浮かばれない。より安全な移動や開催に向けたアイデアを政府に官民問わず提案するなどして、再びコロナ感染の波が高くなっても、イベント開催が可能な仕組みを一日も早く作り上げることが必要なのは言うまでも無い。豊田社長の発言がその契機になることを強く願う。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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