酒井高徳のパスから始まった神戸の大勝

共同通信

酒井高徳のパスから始まった神戸の大勝

Jリーグのレベルを超えた浦和戦

 緊急事態宣言が解除された。10月2日、スタジアムに足を運ぶことのできた人は、さぞかし満足した気持ちで帰途に就くことができただろう。J1第31節のヴィッセル神戸と浦和レッズの一戦。4位と5位の対決は「これがJリーグか」と良い意味で驚いてしまう高度な技術の詰まった試合だった。

 直近の7試合を6勝1分けの負けなし。その間の失点はわずか2という堅守を誇る浦和にとってはショッキングな内容だったに違いない。この夏に欧州から舞い戻った大迫勇也ら神戸のW杯ロシア大会出場の戦士たちがついに本領を発揮したからだ。さらに「イニエスタ祭り」が加わったものだから浦和はなすすべがなかった。

 最も感動的なプレーを見せたのは酒井高徳だった。前節までは右サイドバックを務めていたが、この日は左サイドバックで先発。そのプレーは前半8分に飛び出した。左サイドでパスを受けた酒井には2つの選択肢があった。左サイドで前方を指さしながらパスを要求する佐々木大樹。そして2人のDFの間を割って入った大迫。難易度は大迫を選ぶ方が高かった。佐々木の場合はスペースを狙えるが、大迫に合わせるにはピンポイントのパスが必要になるからだ。

 パスの名手、中村俊輔や小野伸二をほうふつとさせる「超絶のラストパス」だった。右利きの酒井が左足インサイドで、走り込む大迫の目の前に通したグラウンダーのスルーパス。大迫は左足ダイレクトでゴール右にボールを流し込んだ。

 「高徳が一番奥の僕を見ていてくれていたので、すごく素晴らしいパスが来ましたし、うまく流すことができました」。日本復帰6試合目、Jリーグ8年ぶりの大迫のゴールは、酒井のパスなくしては生まれなかった。それを本来のポジションとは風景が逆になる左サイドから、左足で送る。適応力に加えて両足を同じようなレベルで使いこなす酒井の能力の高さには、あらためて驚かされた。

 1点目がW杯ロシア大会出場組ならば、畳み掛けたのはイニエスタだった。前半21分に約20メートルのFKをゴール右にたたき込む2点目。前半34分には左サイドの大迫からマイナスに折り返されたクロスを右足ダイレクトで合わせるシュートで3点目。ボールは浦和MF柴戸海に当たってコースが変わりゴールへ飛び込んだ。

 この日のイニエスタは、これだけでは終わらなかった。浦和に1点を返された後半8分、今度は高精度のピンポイントパスで観客を魅了した。クロスがずれて右に流れたボール。ペナルティーエリア内の右でボールを拾ったイニエスタは、マークに来た浦和DFに背中を向けて逃げるようにペナルティーエリア右角の外に避難。マークが緩くなった次の瞬間、体の向きを内側に向け一歩持ち出すと左足を振った。柔らかい軌道のロビングのパス。これを合わせたのはもう一人のW杯ロシア大会出場組の武藤嘉紀だった。決して簡単なプレーではないが、高い打点から首を振った技術的に高いヘッドでボールをゴール左に沈めた。武藤はこれで3試合連続ゴールだ。

 浦和とすれば1点目は仕方がなかっただろう。ただ、その後に重ねた失点は少しずつミスが絡んだ。イニエスタに直接FKを決められた2点目は、キックの瞬間にGK西川周作がわずかに右にステップを踏んだ。その逆を突かれたわけだが、ヤマをかけたような動きが裏目に出た。重心の逆を取られれば、名手でもまったく動けない。さらに3点目は、自らのキックをサンペールに奪われ、カウンターから失点につながった。そういう意味で、この日はリーグ屈指の守護神の日ではなかったのだろう。

 後半30分、ボージャン・クルキッチと交代、派手な「イニエスタ祭り」は終わった。そして神戸にすれば、これ以上ない理想的な試合を締めくくったのがボージャンだった。名門バルセロナのクラブ最年少得点を記録したこともある新戦力。

 Jリーグ初ゴールは後半39分。布石は5分前にあった。ゴール正面、ペナルティーアーク付近から打った右足シュートはわずかに右にそれる惜しいシュートだった。ほぼ同じ場所から放ったシュートがゴールにつながった。

 明らかに日本選手のキックの質とは違った。ゴール右を狙った1本目のシュート。同じような体勢で放ったのだが、今度はゴール左を狙って決めた。注目すべきは体の方向だ。よく見るとボージャンの体の正面は右方向を向いている。その体勢からボールをインフロント気味でインパクトする瞬間、蹴り足を軸足と交差させるように左に蹴った。どうりでGK西川が動けなかったはずだ。体の向きとは逆方向に蹴り、GKを惑わせたのだ。このような技術が目の前で披露されることで、まねをする子どもが出てくれば、それだけで日本のサッカーの幅が広がる。

 豊富な資金で質の高い選手を集めながら、ここ数年、それに見合った結果が得られなかった神戸。しかし、ここにきて変化が出つつある。この日の試合を観戦に来た人は、間違いなく再びスタジアムに足を運びたくなっただろう。5ゴールの大勝は魅力満載の内容だった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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