スピードよりシュートポジションのつくり方

共同通信

 新型コロナで変わってしまった世の中は、以前のように戻るのだろうか。それはサッカーについても言えるだろう。この2年、サッカー界では選手の交代枠を5人に増やして試合を行うのが普通になった。コロナ感染の不安が小さくなったら、以前のように交代枠は3人に戻るのだろうか。予選を5人交代枠で戦ったのに来年のカタールW杯は3人交代枠になるのだろうか。そうなると戦い方はだいぶ変わるだろう。まあ、そんなことは日本代表がW杯本大会に駒を進めなければ考える必要はないのだが。アジア予選の残り6試合、ポイントを落とすことになれば最悪の事態もあり得る。かなり心配だ。

 内容でいくら試合を優勢に進めても、点を取らなければ痛い目にあう。最近の日本代表と同じような試合が10月16日のJ1第32節にあった。横浜F・マリノス対コンサドーレ札幌の試合だ。試合前の時点で2位のマリノスは、消化試合が1試合多い首位川崎フロンターレとの勝ち点差が12。優勝にたどりつくにはかなり難しい状況ではある。それでも残り試合で差を縮め、最終節の川崎との直接対決に可能性を残したい。対する札幌は11位。

 モチベーションという点では、明確な目標のあるマリノスに分があると思われた。ところが、立ち上がりから主導権を握ったのは札幌だった。前半、何度もCKを獲得するなどマリノスを圧倒した。

 前半24分、先制点が生まれる。左サイドの金子拓郎のショートコーナーを、ペナルティーエリア左角で受けたのは菅大輝。迷うことなく振り抜かれた左足。アウト気味にかかったボールは、ニアポストをかすめてゴールに飛び込んだ。本人がシュートは「まぐれ的なもの」と言った今季初ゴール。だが、それは誰が見てもすごいゴールだった。先制点を奪い、その後も主導権を握る。ただ、優勢のうちに2点目を奪わなければ痛い目に合う。サッカーの普遍的なテーマだ。追いかける側は追加点を許さなければ希望が膨らむ。

 1点は仕方がない。でも2点目は許さない。この日のマリノスは18本ものシュートを浴びながら集中を切らすことなく守り切った。前半29分に札幌の高嶺朋樹のヘディングをセーブしたGK高丘陽平のファインプレー。こぼれ球をクリアした岩田智輝の反応の早さ。後半10分、札幌の小柏剛のGKを破るシュートをはじき出した松原健のカバーリング。大量失点してもおかしくない内容で、自分たちに流れが来るまで最少失点で耐えたのが逆転劇につながった。

 圧倒的に札幌に流れていた風向きが変わったのは残り10分ぐらいから。リズムを変えたのは、後半途中から交代出場した天野純、エウベル、水沼宏太、杉本健勇の攻撃の選手たちだった。

 起点は同じく後半から出場した実藤友紀。後半39分、その縦パスを左サイドで受けたエウベルがゴール前にクロスを送る。そのポイントに走り込んだのが杉本。187センチの長身を躍らせ、DFより頭一つ抜けた高い地点からのヘディングで同点ゴールを突き刺した。

 そして、仕上げは同点から4分後の後半43分、仕留めたのは得点王争いで首位を走る前田大然だった。左サイドからの天野のクロスを右足インサイドボレー。ゴール前にフリーで抜け出して突き刺した。

 J1でのスプリント回数は、ぶっちぎりの1位。驚異的なスピードで知られる前田だが、本当に注目されるのはその「献身」のせいだろう。一度の動きが無駄になっても、新たな動き直しでチャンスをうかがう。この得点場面でも、最初の天野のクロスはDFに引っ掛かった。ボールに合わせるために飛び出しかけた前田は、再びシュートのスペースをあけるためにバックステップ。ゴール前を固める守備陣の大外にコースを見つけると、DFの背後から回り込み、フリーでゴール前のスペースへ。天野の利き足ではない右足のパスにもきっちりと合わせた。

 2位レアンドロダミアンに2点差をつける18ゴール目。前田の最大の良さはスピード以上にシュートポジションに入り込む能力だろう。しかも、両足、頭、どこでも合わせられる。点も入るはずだ。

 得点力不足にあえぐ日本代表に、この能力は必要だ。混戦になればサウジアラビア、オーストラリアとの得失点差の争いになる可能性は高い。確かに大迫勇也はチームに欠かせない存在だが、ポストプレーヤーなので多くのシュートチャンスをつくりだせるわけではない。それなら自らシュートする空間をつくりだせる人材が必要になる。ベトナムや中国という格下相手には、取れるだけゴールを取っておくに越したことはないからだ。

 前田は札幌戦の決勝点についてこう語っている。「純君(天野)がピッチに入ってきたときにGKとCBの間にボールを出してほしいと伝え、伝えたからボールが来たのだと思います」。日本代表の選考や起用は森保一監督次第。ただ、W杯最終予選に前田は招集されていない。Jリーグ得点トップの選手と、海外組がそろう主力選手とのすり合わせが行われていない。その事実は、かなりまずい。後がなくなってからでは遅いのだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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