「意識改革」で6年ぶりのリーグ優勝

共同通信

 過去2年、プロ野球セ・リーグの最下位に沈んでいたヤクルトが頂点に立った。

 10月26日、横浜スタジアムで行われたDeNA戦に快勝、その直後に覇権を争っていた阪神が中日に敗れたため、6年ぶり8度目のリーグ優勝が決まった。

 141試合目での決着は、今季のヤクルトの強さが凝縮されていた。

 1対1の同点で迎えた三回。1番打者に定着した塩見泰隆が出塁すると、大ベテランの青木宣親が続く。

 主砲の山田哲人が倒れても、村上宗隆がしぶとくつないで一死満塁。この好機に新外国人のドミンゴ・サンタナと、6番で打線の潤滑油の働きをする中村悠平が連続二塁打で4点を奪い、試合の主導権を握った。

 投手陣も先発の高梨裕稔から早めの継投策。2番手にシーズン当初は抑え役を任せた石山泰稚、3番手は巨人から移籍の田口麗斗、そして4人目には先発陣の一角である高橋奎二を初の中継ぎで起用して隙を与えない。

 最後は清水昇、スコット・マクガフの「勝利の方程式」で締めくくった。

 全員が自分の役割を理解した「つなぐ野球」で勝利をつかみ取る。これこそが高津臣吾監督が目指した「意識改革」である。

 長年下位に低迷するチームが急浮上するのは簡単なことではない。

 山田、村上に代表される打撃力に注目が集まっても、指揮官はその陰に隠れた投手陣の踏ん張りを大きな勝因として挙げる。

 前年のチーム防御率4・61は12球団でワースト。それが今季は3・45(27日現在)でリーグ3位、後半戦に限れば2・84と見違えるほど改善された。

 そこには、投手出身の高津監督らしい工夫が見てとれる。

 長年、小川泰弘と石川雅規らに支えられた投手陣は質量ともに手薄だった。

 しかし、今季は150キロ超のストレートを投げる高橋と2年目の奥川恭伸の若手が急成長して厚みを増した。

 奥川に関しては、シーズン終盤まで登板間隔を中10日空けて酷使を避けている。

 石山でスタートした抑え役もうまく機能しないと、早めにマクガフをクローザーに起用して軌道修正。清水はプロ野球記録を更新する50ホールドを達成した。

 彼らには10月の勝負所まで3連投以上の登板をさせずに、余力を残している。

 シーズン当初は先発の一角を担っていた田口やアルバート・スアレスらも中継ぎに配置転換して効果的に起用した。

 頂点からどん底までを味わったのは高津監督の生き様にも重なる。

 ヤクルトでの現役時代は、故野村克也監督の下で胴上げ投手になっている。

 メジャーリーグでも活躍したが、晩年は韓国、台湾、そして国内の独立リーグと転々。「いいことはもちろん、しんどい思いはその何倍も多かった」と振り返る。

 それでも、2014年から古巣に戻ると、1軍投手コーチや2軍監督を歴任。塩見や高橋らの才能を開花させた手腕は見事である。

 「捲土重来」。指揮官の自宅には恩師である野村氏直筆の色紙が飾ってある。一度敗れた者が、再び勢いを取り戻し巻き返すという意味だ。

 野村監督時代にミーティングで書き留めた「野村ノート」は今でも持ち、ボロボロになるまで読み返しているという。

 「ID野球」と呼ばれる実技編だけではなく「適材適所」「臨機応変」「常識を疑え」など、監督としての生き様や心構えを学んだ。

 開幕は阪神に3連敗。直後には新型コロナウイルスの陽性者や濃厚接触者がチーム内に出て、青木や山田らの主力が一時期戦列を離れる大ピンチに陥った。

 それでも粘り強く耐えて全員野球でしのぐ。勝負所と目された9月17日からの10連戦を驚異の7勝3分けで乗り切り巨人、阪神を一気に抜き去った。

 チームを覆っていた「負け犬根性」は一掃され、栄光のゴールを駆け抜けた。

 「ヤクルトはよくファミリー球団と言われますが、それって意外と難しいんです。結果が伴わなければ、ただの仲良しの弱いチームで終わってしまうので」

 これは投手最年長の石川があるインタビューに答えた言葉だ。

 確かに球団の面倒見は良く、選手間の仲もいい。それが「ぬるま湯体質」と指摘される一因となってきた。

 しかし、そこに高津監督の意識改革が浸透し戦う集団に変身した。

 この先、クライマックスシリーズ日本シリーズを勝ち抜いたとき「下克上」のドラマは完結する。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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