“ぬいぐるみ”のシャンデリア、背景には“出自”への想いも「捨てられたものにアイデンティティがない自分を投影」

オリコン

 さまざまな「ぬいぐるみ」や「おもちゃ」を組み合わせてシャンデリアアートを制作するキムソンヘさん。きっかけは、捨てられたぬいぐるみが「かわいそう」だという思いだった。しかし、作品と向き合うなかで、在日朝鮮人3世として生まれ、“アイデンティティがない”自分を、捨てられたぬいぐるみに投影していたことに気づいたという。作品には、「モノを大事に」という思いに加え「多様性」への願いが共存するようになった。昨年活動15周年を迎え、現在パルコが企画するSDGsに関するプロジェクト「パルコ アップサイクルプロジェクト」に参加するキムさんに、作品に込めた想いや、作品コンセプトを言葉で伝えようと思うに至った契機について話を聞いた。

【画像】“出自”で悩んだキムソンヘさん、ぬいぐるみで作ったシャンデリアとは?

■いらない「ぬいぐるみ」や「廃材」から作るシャンデリアに反響、「モノを大事にするきっかけに」

 「パルコ アップサイクルプロジェクト」の第1弾として実施中の、クラウドファンディング「KIM SONGHE(キムソンヘ) with your TOYS project」。応募者から送られてきた「ぬいぐるみ」や「おもちゃ」を使い、キムさんが世界で1つだけのオリジナル作品を制作するという企画だ。

 2005年からこの「おもちゃのシャンデリア」を制作するキムさん。不要になった「ぬいぐるみ」や「おもちゃ」から作品をつくりあげる彼女の世界観は、SDGsへの意識が高まってきている今の時代に改めて注目をされていると実感しているそう。

 「最近はサステナビリティに関連して『もっと話を聞かせてほしい』と作品への取材の依頼も増えてきています。周りにも興味を持ってくれている人が増えていて、注目が高まっていることをひしひしと感じています。」(キムソンヘさん、以下同)

 主に、ぬいぐるみやおもちゃなどからシャンデリアを作るが、最近は廃材や“ごみ”も作品の素材として活用し始めているという。

 「廃棄物工場に直接行って、廃材を譲ってもらい、作品に取り入れるように意識しています。シャンデリアの土台自体を見直そうと思って、廃棄されたパイプ椅子のパイプを合体させて使うなど、制作方法もどんどん変えていっています。そういった場に行くことが増えたので、ゴミが膨大に溢れていて大変なことになっているというのは体感していますね」

 「パルコアップサイクルプロジェクト」の依頼が来たとき、「みんながモノを大事にするきっかけに貢献できたら」と思い、すぐに引き受けたというキムさん。クラウドファンディング企画は大きな反響を呼び、すでに目標を遥かに上回る金額が集まっている。

 「おもちゃのシャンデリア」を制作した当初、キムさんは、まだ現在のように“多様性”といったコンセプトは意識しておらず、「いらなくなったぬいぐるみがかわいそう。これでシャンデリアを作ったらかわいいだろうな」といった想いで作っていたそう。だが、次第に考え方にも変化が訪れる。

 「作品の依頼をたくさん受けるうちに、『私はなんで作っているんだろう』と掘り下げていく作業を自分の中でするようになりました。そのときに、自分は在日朝鮮人として生まれて、“日本人”でも“朝鮮人”でもなく、『アイデンティティがない』ということと向き合ったんです。そういった想いを、捨てられたぬいぐるみに投影させていたのかなって気づいた瞬間でした」

 そして、作品の持つ意味が自分の中で変わったことで、「コンセプトをちゃんと言葉にして積極的に伝えていかなきゃ」と強く思うようになっていった。

 在日朝鮮人3世として生まれたキムさん。出自ゆえの“不自由さ”を、幼い頃からずっと感じていたという。チマチョゴリを着て朝鮮学校に通っていた高校生時代には、道で男性に罵声を浴びせられるなど、理不尽な行為に直面することも多々あった。

 そうした経験から、アルバイトをするときに日本名を使ったり、在日朝鮮人であることを隠したりと出自を隠すこともあったという。「在日だということを言ったら、どういう反応をされるんだろうなという不安があった」とキムさんは当時の心境を振り返った。

 周囲の眼差しを気にせざるを得なかったキムさんだったが、専門学校に通い始めた頃にはあまり気にしなくなったという。

 「専門学校のときの友人がそういったことを気にしない子が多くて、周りの環境がとてもよかったのが大きいと思います。好きなことをやって、一緒に打ち込める仲間がたくさんいましたね」

 自分の想いを言葉にすることが苦手だったが、「コンセプトを口にしていかなくては」と感じて積極的になり始めたのは、制作した作品について使命のようなものをここ何年か感じていているからだ。

 「きっかけは5年前に開催した初めての大きな展示会です。たくさんの方に観てもらい、直接感想を聞くなかで、少しでも誰かの心を動かせるのなら、これをちゃんと使命としてやっていかなくてはという想いが芽生えました」

 作品のコンセプトのひとつである“多様性”に関しては、「人と人は認め合うべきというのがずっと課題になっていて、簡単そうなことなのに根深いものがあると感じる」とキムさんは語る。

 「『人を認める』とか『嫌いでも攻撃しない』ということを、色んな素材のぬいぐるみがくっついてひとつになる作品で伝えていきたい。ぬいぐるみもいろいろな形・素材があって、それって人と同じみたいだと感じるので…。さまざまな素材の愛がくっついて光を醸せることをずっと伝えていきたいです」

 キムさんの作品は、「サステナビリティ」と「多様性」が大きなテーマとなって共存している。その点については、「どちらもこれからの未来に必要なテーマなので、セットでやっていかなければいけない」と考えているという。

 「サステナブルな世界を実現するには“みんな”が協力し合わなくてはいけないんだと思います。そういう意味では、私の作品ともリンクしている気がします」

 現在、3児の母でありながら、アーティストとしても活動するキムさん。学校で子どもたちに向けたワークショップなどにも関心があるという。

 「『正解は自分で決める』ということを、アートを通して子どもたちに伝える活動もしていきたいと思っています。ほかにも、海外で現地の素材を使って、その土地その土地で作品を作っていきたいですね。その場所でしかできないもので作って置いて来るみたいなことをやりたいです」

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