両チームのサイドバックが存在感

共同通信

 サッカーと言ったらブラジル。この常識は少しずつ変わってきているのかもしれない。Jリーグ開幕から30年。当初は外国人監督といったら、ほとんどがブラジル人だった。それが今季、J1では柏レイソルのネルシーニョ監督だけ。令和に入り、Jリーグに吹く欧州化の風。4月10日に行われたJ1第8節。アルベル、リカルド・ロドリゲスの両スペイン人監督が率いたFC東京対浦和レッズの一戦は戦術的な意味で注目の試合だった。

 「今日の試合は戦術的で欧州的な試合で、お互いにチャンスもある見ごたえのある試合だった」。試合後にアルベル監督が語ったように、ともに組織的で規律のとれたサッカーを展開した。FC東京は中盤の底にアンカーを置く4―3―3。一方の浦和は4―2―3―1。ゴールには恵まれず、0―0に終わったことには物足りなさもあった。それも両GKの活躍があったからだと考えると、許せる範囲だった。

 開始3分ほど、浦和のキャスパー・ユンカーのシュートで「攻撃」が始まった。FC東京も前半5分に右サイドバックの渡辺凌磨がGK西川周作を襲う右足シュートを放つなど、ともにアグレッシブな立ち上がりを見せた。

 その激しい攻防で徐々に主導権を握っていったのは浦和だ。スタートポジションでは2列目の左に張り出していた小泉佳穂。彼が中央寄りに入り込むことでタッチライン際にスペースができる。このエリアに左サイドバックで起用されたマルチプレーヤーの明本考浩が何度も飛び出してくる。FC東京のCB、森重真人とエンリケトレビザンもヘディングに優れているので、そのクロスをはね返し続けたが、明本の攻撃参加は大きな脅威となっていた。

 前半22分、FC東京は命拾いをする。おそらく、これは意識的なプレーではないだろう。浦和はペナルティーエリア内の左から柴戸海がペナルティースポット付近にいたユンカーへ。ユンカーはオーバーヘッド気味にゴール前にボールをつないだ。右大外から詰めたダビド・モーベルグの右足シュートがネットを揺らした。現場ではビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によって確認された微妙な判定。ユンカーが倒れ込みながらボールにコンタクトする直前に、見事なオフサイドトラップとなっていた。FC東京の守備ラインの最後尾にいた長友佑都が、浦和の酒井宏樹のマークを捨ててユンカーに詰め寄る。結果として、酒井がオフサイドポジションに取り残される結果となった。

 後半に入っても主導権は浦和が握った。後半21分、交代出場の松尾佑介が左サイドをドリブルで切れ込んで惜しいシュートを放つ。後半26分にはゴール正面25メートルのFK。岩尾憲の右足シュートはGKヤクブ・スウォビィクの美しいダイビングに阻まれる。

 FC東京もチャンスはあった。GK西川のブロックにあったが、CKのこぼれ球から後半17分に永井謙佑が放ったシュート。後半38分にはアダイウトンがペナルティーエリア左外から、酒井が間合いを詰めてくる前に右足を一振り。曲がって落ちる巧妙なシュートだったが、ここもGK西川にはじき出された。

 帰宅して、録画してあった試合中継を見た。珍しく地上波での放送だったのだが、それを見て笑った。サイドバックに焦点を当てた企画を組んでいたから。みんな考えることは、だいたい同じなのだ。「森保ジャパン」で先発する左右のレギュラーセンターバックが出場する試合となれば、そのプレーを確認したいというのは不思議なことではない。

 長友にしても、酒井にしても、Jリーグのレベルで言えば抜けた存在だろう。W杯アジア最終予選では、35歳の長友は多くの批判を受けた。もちろんミスがあったのは確かだ。しかし、プレッシャーにさらされながらも長友より守ることのできる日本選手は何人いるだろうか。特に本大会でスペイン、ドイツという格上のチームと戦う場合は、いかに隙をつくらずに90分間集中した守りを続けられるかが鍵となる。攻撃力はそれほど問われない。

 この両サイドバックは、世界のトップクラスの選手と対戦してきた経験がある。それだけにJリーグでは単純に「独力」でボールを奪い取る力がある。日本サッカーで多く見られる攻撃を遅れさせ、集団でボールを奪うというプレーとは大違いだ。世界で戦うには、目の前の相手からボールを奪い取る力が不可欠なのだ。

 この試合で2人が対面するアタッカーは「独力」に優れる外国選手だった。そして、長友と酒井はともにいぶし銀のようなプレーを見せた。前半25分過ぎにボールへのプレーの直前に体をぶつけてユンカーのバランスを崩させボールを奪った長友のプレー。酒井は後半にフィジカルと突破力に優れるアダイウトンと対する場面が多かったが、スライディングの深さと相手からボールを奪い切る力は見事だった。欧州のトップリーグで活躍する守備者は、おそろしく緻密なリスク管理の積み重ねでプレーしているのではないだろうか。

 欧州の一流を知る2人のベテランが、欧州流の規律ある戦術のもとで存在感を示した一戦。勝利を得られなかったサポーターにとっては不満もあっただろうが、見る角度を変えると非常に興味深い内容の試合だった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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