最強ブラジルを相手に最少失点の敗戦

共同通信

 どの到達点を基準にするのかで評価は変わってくるのだろう。単純にFIFAランキング1位チームとの1試合の対戦を評価するのか。それとも、半年後に迫ったW杯本大会を踏まえて問題点をあぶり出す試合として見るのかによって。

 新国立競技場になって初の日本代表戦。6月6日、8年ぶりに日本サッカーの聖地で行われた一戦は、緊迫感にあふれた濃い内容だった。あいにくの雨にもかかわらず、スタジアムに駆け付けた観客は6万3638人。対戦相手が、ネイマールをはじめサッカーファンなら誰もが名前を知っている選手のいる「王国」ブラジルだったのが大きいだろう。

 過去に日本とブラジルの対戦は12回ある。成績は日本の2分け10敗。その引き分けた2001年と2005年のコンフェデレーションズカップを生で見た。0―0で引き分けた日韓W杯の前年の試合は、後に浦和レッズなどで活躍するワシントンらがいたが、欧州組は合流していない。2―2で引き分けた2005年のケルンでの試合は、中村俊輔のプレーだけが印象に残っているが、こちらもまたドイツW杯前年でブラジルもまだメンバーが固まっていなかった。

 それと比べても、親善試合とはいえ、今回はブラッシュアップされた本大会仕様に近いチームだった。ブラジルがコンディションに多少の問題を抱えていても、本大会で優勝経験のあるドイツ、スペインと対戦する日本にとっては「現在地」を知るまたとない機会だった。

 FIFAランキング1位と23位。そこには想像以上に大きな実力差がある。例えるなら、ブラジルは高性能のスポーツカーで、日本はファミリーカーといったところだろうか。まともにスピードを競ったら勝てない。ただ、勝つ可能性はゼロではない。勝つためには地道に走り続けることだ。

 ブラジルは開始2分、いきなりトップギアに入れてきた。ネイマールの意表を突くヒールパスから、パケタがシュート。左ポストを直撃した。これが決まっていたら、日本も6月2日の韓国のように大崩れしたかもしれない。ただ、この大ピンチを運に救われたことで、守備陣の集中力が高まった。その後、日本の素晴らしい守備が続く。

 思い出したのは12年前の南アフリカW杯で、当時の岡田武史監督が言っていたあの言葉だ。「ちょっと言葉としては汚いんだが、ハエがたかるように守備をするしかない」。吉田麻也、板倉滉のセンターバックとその前方の遠藤航を中心に中央を固める。

 さらに、右サイドバックで起用された、あの岡田監督の言葉を知っている選手のパフォーマンスはすごかった。アジア最終予選では周囲から批判の声も上がった、35歳の長友佑都だ。レアル・マドリードを自らのゴールで欧州王者に導いた「21歳のブラジルの至宝」ビニシウスに、ほとんど何もプレーをさせない。さすがインテル・ミラノでレギュラーを張った選手だ。

 中盤の右に入ってすさまじい強度で攻守に奮闘した原口元気も含め、格上を相手にする場合は、技術だけではなくハートを持っている選手ではなければ戦えない。

 前線の選手も含め、守備に関してはすべての選手が素晴らしい働きを見せた。特にGK権田修一のプレーは完璧といって良かった。前半19分、27分、42分と強襲してきたブラジルのシュート。ラフィーニャと、ネイマールが放った2本の弾道はゴール枠を確実にとらえたが、正確なポジショニングと素早い反応からのセーブでボールをはじき出した。後半32分、PKからネイマールに決勝点を許したのは、不運の一言だ。

 森保ジャパンは、守り抜こうと思えば守り抜ける。それは全開ではないにしろ手を抜かなかったブラジルを相手に証明された。その意味で今回の1試合を評価すれば満足できる内容だった。ただ、本大会での戦いを考えると、大きな上積みがなければかなり苦しい。いくら強豪と良い試合をしても、負ければ勝ち点は0。ドイツ、スペインと同組の本大会で前回のロシアW杯のように1勝1分け1敗の勝ち点4で決勝トーナメントに進出できる可能性は低い。おそらく勝ち点6が必要になるだろう。

 今回、日本が放ったシュートは公式記録では4本。ゴール枠をとらえたのは後半5分に古橋亨梧の放った1本だけ。アウベスのヘディングでのクリアをゴール正面で拾って放ったロングシュートだ。それもマルキーニョスにブロックされてCKになった。GKアリソンがゴールマウスで処理したボールは、結局1本もなかったことになる。

 0―1は惜しい結果だが、勝ち点は0。そこから勝ち点1の0―0に持ち込むのは、まだ可能性があるように思える。しかし、勝ち点3を得る1―0の勝利に持ち込むのには、いくつか条件がそろわなければ難しい。

 本大会での優勝候補とのガチンコ勝負。失点しないために自陣のゴール前を固め、そこから攻撃に移り、さらにゴールの可能性を高める。それにはかなりの工夫が必要だ。

 速さだけでは通用しないのは、ブラジル戦で証明された。日本はどうやってゴールを奪うのか。残された時間は半年だが、代表活動は限られる。その条件の中で日本は、森保一監督が持つ引き出しに期待するしかない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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