住民30人…佐賀の「限界集落」駆けるマウンテンバイク 地域再生の新しいモデルに

 佐賀市富士町にある山あいの小さな集落に、マウンテンバイク(MTB)愛好家が集まっている。ここに暮らす人たちは、先祖から受け継いだ土地を「遊び場」と呼ぶ若者たちを拒まない。何が起きているのか。現地を訪ねた。

 福岡市から約1時間、佐賀市街地から40分ほどに位置する苣木(ちやのき)地区。スギやヒノキの林に囲まれ、美しい棚田が広がる。ただ、目を凝らすと、雑草が生い茂った耕作放棄地もある。

 集落には30人余りが暮らし、65歳以上のお年寄りが約8割を占める。「まさに限界集落。ここでは50代の私ですら『若者』と呼ばれる」。苣木地区で自治会長を務めたこともある農業の水田浩治さん(55)は笑みを浮かべた。

 だが、19日に訪れると、集落の入口に車がびっしり。「福岡」「大阪」「名古屋」と県外ナンバーが並ぶ。MTBの競技大会が開かれ、全国から約60人の愛好者が集まっていた。集落の住民の倍の数だ。

 全ては6年前の出会いから始まった。

      ■

 2012年春。集落の祭り会場に一人の男性が訪ねてきた。

 福岡県内のMTB愛好者でつくる「福岡マウンテンバイク友の会」(福岡市)代表の増永英一さん(45)は水田さんに言った。

 「自分たちの遊び場が欲しい」

 増永さんたちは元々「油山市民の森」(同市南区)を根城とし、MTBに乗っていた。ところが、「山ガール」などに代表される登山ブームを迎えたところに、オフロードバイクも入り込むようになり、登山者から「危ない」という声が噴出。11年にはバイク利用禁止の看板が立った。

 MTBは山林の起伏に富んだ斜面やカーブを走るのが魅力。急ブレーキで土をえぐるなど山道を傷つけるのが避けられない。外部の人が自らの土地に入ることを嫌う地権者感情もあって、MTB愛好者は各地で山を追い出されている。

      ■

 一方、こうした山々にある集落は過疎化と高齢化が進み、人手不足で山林や田畑が荒れている。苣木地区も例外ではない。

 「10年先はないかもしれない」。水田さんは数年前から、綿を生産する地域おこしに取り組むなど集落存続を模索。一緒に活動する佐賀市職員の筒井竜二さん(54)の紹介で知りあったのが、MTB愛好者の増永さんだった。

 増永さんは、放置された山林を「遊び場」として整備するだけでなく、もう一つ、水田さんに提案していた。「体力はあるので地域のお手伝いはできる」

 集落は、若者がいないため、道路清掃や草刈りなど「区役(くやく)」と呼ばれる集落の営みが難しくなっていた。水田さんにとっては渡りに船だった。

 ただ、見ず知らずの人が自分たちの土地に入ることを嫌がる集落の住民もいた。集会を何回も重ねた末に、最後は水田さんが「何かあれば責任を取る」と押し切った。

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 区役は年3回。20、30代を中心とするMTB愛好家たち約30人が集落の住民約30人とともに、耕作放棄地の草を刈り、農水路のゴミを取り除く。半日ほどで終えた後は、集落の住民が昼食を振る舞い、会話を弾ませる。集落の山口恭子さん(54)は「私たちだけでは3日かかっていたが、たった1日で終わる。若い人がくれば私たちも元気になる」と語る。

 MTBの競技大会は、集落の衰退に危機感を抱く原敏朗さん(64)が「せっかくなら大会を開いたら」と増永さんに呼びかけたのがきっかけだ。

 昨年から競技大会が始まると、全国からMTBバイカーが集り、集落周辺を巡り歩き、近くの古湯温泉に泊まるようになった。今年は大会を観戦する住民の姿もあった。「これで満足せず、本当の意味で地域の活性化につなげたい」と水田さん。この先も地域は存続できるのか、小さな集落の模索は続く。

   ◇    ◇

「地域再生の新しいモデル」

 森林政策に詳しい森林総合研究所(茨城県つくば市)の平野悠一郎主任研究員の話 深刻な過疎・高齢化に悩む山間部では、これまでも地域活性化を狙った試みはあったが、参加者が地域と深く結びつくまでには至っていなかった。苣木地区では、外部の若者たちが地域に根ざし、集落で行事を開くまでになった。地域が活気づけば、地元住民は誇りを持てることにもなる。地域再生の新しいモデルであり、今後も長続きするには互いの信頼関係が欠かせない。

=2018/08/30付 西日本新聞朝刊=

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